顧客中心の企業となるために

驕れる者久しからず。

以前、好調だといわれていた業界や会社はいくつもありました。

飛ぶ鳥を落とす勢いと表現される会社は、これからも出てくるでしょう。

ただ、その”賞味期限”は、日を追うごとに短くなっているように感じます。

 

―― 引用ここから ―――――――――

顧客中心の企業となるために

つい七五年ほど前には、アメリカの鉄道産業は、抜け目のない証券市場から、絶対に間違いのない投資先だと思われていた。ヨーロッパ各国の王室は、アメリカの鉄道産業に膨大な金を投資した。数千ドルをかき集めて鉄道株を買った人には、神の祝福として永遠の富が約束されたと考えられた。スピード・融通性・耐久性・経済性、さらには成長可能性から見て、鉄道に匹敵する輸送形態はなかったのである。

ジャック・バーザンが指摘したように、「一九世紀の終わり頃までは鉄道は社会制度そのものであり、人間のイメージそのものであり、伝統であり、栄誉の象徴であり、詩の源泉であり、少年期の願望の拠り所であり、最高の玩具であり、人生のエポックを記す荘厳な機械であった」。

自動車、トラック、航空機が出現した後でさえも、鉄道は揺るぎない自信を持ち続けていた。今から六〇年前に鉄道会社の経営者に向かって、「三〇年もすれば鉄道は活気を失って破滅の道を辿り、政府からの助成金を嘆願するようになるだろう」などと言おうものなら、頭がおかしいと思われたはずだ。そのような未来は考えもつかなかったからである。問題視したり質問したりするどころか、普通の人間にはそのようなことは考えつきもしなかった。そんな未来を思い描くなど、正気の沙汰ではなかった。ところが、現在では、そのとんでもないことが現実として受け入れられている。

例えば、楽しげにマティーニを飲んでいる分別ある一〇〇人の市民を乗せて、重量一〇〇トンの金属物体が地上一万メートルの上空をスムーズに移動するといったアイデアも、いまや現実のものとなった。これらが鉄道産業に無惨な一撃を加えたのである。

こうした不幸な運命を避けるために、企業はどうすれば良いのだろうか。顧客中心に考えるとはどのようなことなのだろうか。部分的かもしれないが、この質問への答えは、これまでに挙げた事例とその分析で明らかにしてきた。個々の産業についての詳細は、別の機会で示したいと思う。いずれにしても、顧客中心の企業となるには、単なる志や秘密の販売促進法以外のものが必要になることは間違いない。その際、どういう組織を作り、どういうリーダーシップを取るか、といったより大きな課題に取り組まなければならない。ここでは、衰退の運命を避けるために、一般的に何が不可欠なのかを提言するに留めたい。

セオドア・レビット『マーケティング近視眼』
(1960年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

ではまた。

 

\ 最新情報をチェック /