購買意欲調査に特有の事情
レビット博士のマーケティングアカデミーの時間がやって参りました。
“専門家”というのは、いつの時代、どこの世界でも、似たような行動をするものです。
視点を変えて・・・。
このことを、あなたのビジネスに活かせないか、検討してみてはいかがでしょうか?
では、レビット博士、お願いします。
―― 引用ここから ―――――――――
『購買意欲調査に特有の事情』
市場調査、とりわけ購買意欲調査の世界では、専門家同士の横のつながりが緊密である。自分たちの分野は極めて洗練されているため、異なる人々がそれぞれ独自に調査を行っても同じような答えにたどり着く、と主張する人もいる。ところが時として、まったく正反対の提案が導かれることもある。
そのよい例がプルーンの販売戦略である。アメリカで有名なある購買意欲の研究者は、消費者の態度や受け止め方を分析したうえで、プルーンの緩下作用(便通を良くする働き)を認めてそれをアピールすれば、売れ行きは伸びるはずだと結論づけた。ところが、知名度でひけを取らない別の権威は、緩下作用には触れずに、栄養価や活力源といった特性を訴えれば、売れ行きを押し上げられるだろう、と述べた。
名立たる複数の専門家が互いに相容れない結論を出す、あるいは同じような事実からまったく異なる提案が導かれることは、だれでも思い当たるのではないだろうか。
仮に購買意欲調査がひどく正確さに欠け、お粗末なことが事実だったとしても、別々に調査に当たった専門家たちが液体クリーナー、コンパクト・カー、メンソール・タバコで同様の結論にたどり着いたのは、なぜなのか。
ひとつ考えられるのは、これらの調査は科学的に乏しく未成熟だからだ、という説明である。研究者は周囲の評価を気にして、頻繁に仲間に意見を求めたり、逆に助言や励ましを与えたりしていた結果、互いに考えが似通っていくのかもしれない。仕事にもっと自信を持っていたなら、専門家仲間に意見を求めることは減り、調査結果の多様性が増すだろう。
言うまでもなく、どの分野の専門家も常日頃から仲間に相談を持ちかける。だが、購買意欲の分野の研究者にこの傾向がとりわけ強いのは、特殊な事情による。より多彩なマーケティング課題に応えるために、企業が購買意欲調査を活用する件数が増えているのだ。これは、企業の経営幹部が購買意欲調査を信頼しているからというわけではない。むしろ、「調査をしないわけにはいかない」との考えにとらわれている場合が多い。
購買意欲調査は、通常とはまったく異なる、独特な職能分野である。この分野の人材はおおおむね、想像の翼を自由自在に操り、きわめて歯切れがよく、自身にあふれていて、周りの人はつい納得してしまう。しかも得てして、企業内での地位や組織図には大きな意味を見出さない。企業のリーダーたちが、細かい統計データだらけの、もったいぶった報告書にすっかり嫌気がさしている時に、こうした購買意欲調査の専門家に接すると、たちどころに心を動かされる。相手の主張を無条件に受け入れるつもりはなくても、その威勢のよさに感服するのだ。そして仲間内で「興味深いアイデアをいくつも温めている」「必ずしも賛成できるわけではないが、長年の経験のなかで出会ったほかのだれよりも、アイデアが豊富なようだ」などと、購買意欲調査の専門家へのほめ言葉を交換する。
セオドア・レビット『購買意欲調査をめぐる狂想曲』
(1960年ハーバード・ビジネス・レビューより)
―― 引用ここまで ―――――――――
ではまた。