感性に基づく判断
人間に対する深い洞察は、なにもマーケティングだけに活用できるものではありません。
人はどのように考えて、どのような言動をとるのでしょうか?
つまるところ、人を相手にする限り、ゲームでも、スポーツでも、ビジネスでも、この観点への深い洞察が勝敗を決するように思います。
では、レビット博士のマーケティングアカデミーの続きです。
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『感性に基づく判断』
購買意欲調査を支持する急先鋒のピエール・マーティノなどは、統計に頼らず熟考を基に判断を下す購買意欲調査のあり方について、「真理とは、事実ではなく感性である。何かを真理だと『知る』のは、心の中で感性がそう『告げる』からだ」と擁護している。「洞察は潜在意識によってもたらされる。だが、IBM製のコンピュータには潜在意識はない」とも彼は述べている。購買意識調査から、新しくともすれば立証不能なアイデアが生まれた場合、たとえ多大な費用とリスクが伴ったとしても、すぐさま応用される例が多い。これはほかの分野との違いであり、物理学や生物学ではけっしてありえないことだ。このような状況では、購買意識調査の専門家が自分たちの活動やアイデアの地位をなんとか確立しようと必死になるのも、うなずけるというものだ。
地位を高める最も簡単な方法は、意見の不一致や、専門家としての未熟さを取り除くことだろう。このため、多くのテーマや課題に関して、言わば意図せず自然に合意が形成される。これは、疑念や批判から自分たちを守るための鎧のようなものである。本稿で取り上げた業界には、購買意識調査の専門家たちから同じような助言がなされたようだが、それは購買意識調査が洗練されているからではなく、この分野の地位を高めたいという、焦りにも近い思いからではないだろうか。
この可能性について筆者は、購買意識調査分野の名高い専門家たちの意見を聞いてみたが、心理分析をどれだけ重ねても、そうした仮説が正しいとの証明は得られないだろうと彼らは断言していた。ただし、液体クリーナーに関しては、たとえ発売前に各ブランドの全側面を徹底調査していなかったとしても、関係者はみなブランドと広告方針をめぐる心理的アプローチに没頭していたので、実は自分自身の購買意欲を探るような動きをした、という。つまり、マーティノの言う洗練された「感性」を基に判断を下したのである。
セオドア・レビット『購買意欲調査をめぐる狂想曲』
(1960年ハーバード・ビジネス・レビューより)
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ではまた。