経営幹部の意欲を引き出せ

今回で、購買意欲調査をめぐる狂想曲は完結です。

1番最初に、”レビット博士の秀逸なところは、
2014年のいま読んでもまったく色褪せていないところ”
と書きました。

レビット博士が語っている、”昨今”や”現在”は、
実際には1960年のアメリカのことです。

にもかかわらず、2014年と捉えても、
まったく遜色なく読めてしまいます。

さて、レビット博士がビジネスオーナーに突き付けた”義務”を、
あなたは、どう受け止めるでしょうか?

 

 

―― 引用ここから ―――――――――

『経営幹部の意欲を引き出せ』

意志決定に携わる経営幹部には、入手可能な消費者調査をすべて活用する義務がある。
ただし、何よりも大切な義務は、製品が売買される実際の環境についての知識や予測を総動員させて、調査結果と組み合わせながら創意工夫を凝らすことである。

消費者の反応で重要なのは、自宅のリビングや外界と隔絶されたブースで、調査担当者の質問に対して答えた好みのブランド名や色ではなく、広告や店舗で接するブランド名や色のなかで、どれに最も心を動かされるか、である。

批判しようのないビジネス上の美徳に関しては、消費者調査は率直な物言いはしないし、できない。
購買意欲調査の影響は興味深いが、そのせいで経営幹部が優柔不断に陥ったり、不毛な方針を決めたりするのは許されない。
移り変わりの激しい一部の消費財分野では、合理化しすぎているのではないか、と思える事例もある。
調査結果は動かしようのないものと、経営陣が見なしている場合があるようなのだ。
そういう捉え方をすると、判断を下す必要性も、市場に影響を及ぼす他の要因を考え合わせる必要性もなくなる。

コンパクト・カー、液体クリーナー、メンソール・タバコを市場に送り出した経営陣は、さまざまな要因を考え合わせるという仕事を、適切にこなしてこなかった。
もちろん、彼らは道理をわきまえているはずだ。
しかし一部には、「自社製品は研究室の中で販売され、そこでは消費者が心の奥底で考えていることさえわかればよい」と考えているとしか思えない行動をとる経営者もいる。
このように、未成熟な購買意欲調査の結果を、ほとんどの場合に当てはまるかのように、あっさりと、しかも無条件に受け入れてしまう姿勢こそ、私がこれまで警鐘を鳴らしてきた、秩序なき画一化の元凶である。

念押しになるが、昨今の「企業イメージ」広告がどれもこれも無意味に似通っているのは、すでに述べたように、さまざまな要因を考え合わせる習慣が欠けているからでもある。
企業イメージは重要だが、現在のように、「何でも右に倣え」の風潮が蔓延しているのは、明快な企業イメージを示せずにいるよりも深刻な状況といえるだろう。
具体的な例として、エレクトロニクスやサイエンスといった成長分野で事業を展開したり、展開したいと考えているおびただしい数の企業による、企業イメージの広告キャンペーンがある。
ごく一部の極めて効果的な事例を除き、大多数の広告から伝わってくるイメージは、見た目から音楽に至るまで「これでもか」というほど似ている。
「サイエンスの輝き」という退屈でありふれたテーマをしきりに訴え、ロケット、宇宙ステーション、電子制御機械、物質の原子構造モデルといった、これまた見飽きた写真を載せている。

このため、主要ビジネス誌の広告ページは瞬く間に、天空を思わせる背景に科学っぽい道具をあしらった巨大な原形質のかたまりのようになる。
あまりにも同じようなテーマだらけなので、自己陶酔した企業が披露する広告は、ゼネラル・エレクトリックの株主総会で共産主義かぶれの活動家が振るう熱弁の半分も効果がないのではないかと疑いたくなる。

努力やメッセージはすべて、顧客に向けられたものだ。
その出所が実業家、アーティスト、牧師、物乞いのいずれであっても関係ない。
周囲の雑音をかいくぐらないと、たとえどれほど耳を澄ましたとしても、顧客まで届くことはない。
明快で意義深く、ほかにはない際立ったメッセージでなければ(意義深いというのは、顧客自身のニーズや経験に照らしてだけではなく、顧客のもとに容赦なく押し寄せる他社のメッセージと比べてである)、伝わったことにはならない。
メッセージの伝達を見届けるのは、経営者だけが担う避けられない義務がある。
この義務をまっとうするには、メッセージそのものに説得力を持たせるだけでなく、どのような競争環境のなかで他社を抑えて認知を勝ち取らなくてはいけないのかを考える必要がある。

セオドア・レビット『購買意欲調査をめぐる狂想曲』
(1960年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

完結しましたので、以下、バックナンバーです。

『購買意欲調査をめぐる狂想曲』

証明できない有用性

似通った結果になる理由

購買意欲調査に特有の事情

購買意欲調査の専門家たちを襲う不安

感性に基づく判断

意識的な模倣という手法

似ていても変えられない理由

似てしまったのはマネジメントの失敗である

科学的アプローチの誘惑

経営幹部の意欲を引き出せ

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