コストの差を考えて戦略を選択する

模倣戦略について、引き続きレビット博士に学びます。

少なくとも先に私の意見を書いておきますと、”世の中で初めての試み”は発明と同じです。
ビジネスとして取り組むにはリスク(不確実性)が多すぎですね。

―― 引用ここから ―――――――――

『コストの差を考えて戦略を選択する』

概してイノベーションは、少なくとも次に挙げる二つの優位性の見地から評価される。

① 世の中で初めての試みである。
② 業界またはその企業にとって初めての試みである。

厳密にいうとイノベーションは、いままでに試みられたことがない、まったく初めてのものだけを指す。この定義をやや緩めれば、どこかですでに試みられたが、ある業界では初めて手掛けるものもイノベーションと呼べよう。これに対して、同業他社がイノベーターをまねた場合は、たとえその企業にとっては初めてであっても、イノベーションではなく模倣である。例を挙げれば、次のようになる。

●照明器具の透明包装は、他業界ではすでに数年前から採用されているが、照明器具業界では「新しい」と認められる。 ――イノベーション

●照明器具業界のある企業にとっては新しい包装方法でも、同業他社は以前から採用している。 ――模倣

両者の違いは、重箱の隅をほじくるような空疎な議論ではない。R&Dの予算編成、R&Dの方向付け、商品企画の策定にとって、最も重要な案件である。何に影響を及ぼすのかを、初めに指摘しておくことは、相違の重要性を明確にするばかりでなく、後半で提案するシステム構築を考える一助となろう。

R&Dには資金と時間がかかり、いらだたしい思いをしがちである。これまでにないものを生み出そうとすれば、莫大な人手と資金が必要になる。しかも、それらを費やしても、確実に報われる保証はない。

一方、R&Dの方向性が、すでにどこかで行われたことを、自社あるいは業界に取り込もうというものであれば、やるべきことの性質とコストは大きく変わってくる。特に、イノベーターのR&Dの成果を、自社向けに改造するという場合はかなり違う。まず、スピードに重点が置かれる。成功したイノベーターに早く追いつくためだけでなく、同じように模倣戦略を取ろうとしている他社よりも先に模倣品を発売することが重要だからである。

このような考え方や開発の性質を「イノベーション」と呼ぶのは、鋤をパワー・ショベルと混同するようなものだ。パワー・ショベルは一面においては大型の鋤だが、両者の特性は全然違う。鋤の購入費は取るに足りないものであり、ユーザーは取り立てて訓練を要せず、メインテナンス・コストもかからない。しかし、一定期間中に多くの鋤を使ってパワー・ショベル一台分の仕事をこなさなければならないとしたら、それは高価な固定資産をフル稼働させることから、大勢の人間を管理する体制が必要になることを意味する。

同様に、「ブレークスルー(革新)的新しさ」を生み出すR&Dと、模倣のためのR&Dとは大きく違うのである。後者は「D&D」(デザイン開発)に毛の生えた程度のものである。せいぜい「リバース・エンジニアリング」、すなわち既存製品を分析することで、その製品の製造を可能としたR&Dにたどり着こうとするものである。

このように、イノベーションと模倣の間には必要な努力とコミットメントの性質に(時として理不尽な信念と相まって)大きな相違があるから、成長戦略を考えるに当たってはまず慎重に自己分析をしなければならない。

セオドア・レビット『模倣戦略の優位性』
(1966年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

 

では、また次回。

 

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