イノベーターであり続けるのは不可能

何事においても、言われてみればその通り、ということはあると思います。

しかし、その通りのことを、その通りと受け入れ、実践することは難しいものです。

 

―― 引用ここから ―――――――――

『イノベーターであり続けるのは不可能』

リスクを伴う場合が多いにせよ、イノベーションは生産的であり、成功への道となりうるものである。今日、イノベーションの可能性を積極的かつ注意深く探っていない企業は、競争上、かなり危険を冒していることになる。社風や社員の行動スタイルが偏狭になる恐れもある。イノベーション ―― 特に新しい製品や製品特性、顧客サービスにおける ―― の探究は、企業がマーケティング志向であるためには不可欠な部分である。

したがって、モービル石油(訳注:現エクソン・モービル)が開発した自動車検査・修理センターのような大規模なものであれ、ミードジョンソン(訳注:現ブリストル・マイヤーズ・スクイブ)の乳児用調整乳“エンファミル”のように成熟製品のライフ・サイクルを延ばしたり、市場を拡張したりする適度なイノベーションであれ、イノベーションを求める社風や企業姿勢があって、初めて企業に優れたセンスが生み出されるのである。

洞察力に富みながら無視された、ジョン・B・スチュワートの競争的模倣に関する論文で、次のことがはっきり指摘されている。すなわち、そうしたセンスがあれば、イノベーションは、新取の気象に富み、強力なリーダーシップに導かれた企業イメージを構築するうえで効果的な方法になる。

今日ではイノベーションに賛成する立場を示すことは、母になることを承諾するのと同じくらい刺激的である。同時に、イノベーションに反対の立場を明らかにしようとすれば、母になることを拒否する以上の驚きをもって迎えられるだろう。ピル(経口避妊薬)、リング、電子カレンダー時計、低年齢層への性教育などが普及した時代にあって、思わぬ妊娠は許し難い不注意か、抑えがたい情熱が原因ということになる。同じように、科学、エンジニアリング、市場調査が発展した今日、イノベーションへの反対は、愚直あるいは、救い難い無知と思われるだろう。

求められるのは、バランスの取れた見識である。このようなイノベーションの流れは定着し、また必要不可決であり、優れたセンスを生み出すが、それでいて経営資源のすべてを使い果たしてしまうものではない。ある業界のなかの一社が、イノベーションにおいて常にリーダーであり続けるのは不可能である。業界のイノベーターたらんと身を粉にして努力し続けることの危険性を認識すべきである。「業界初」といわれるものを次々と生み出し、すべてのイノベーションにおいて常にライバルを打ち負かすのは、たとえ不退転の決意、エネルギー、想像力あるいは経営資源に恵まれていようと不可能である。

重要なのは、一企業が常に当該分野で最初に試みようとすることすら無理であるという点である。そうした試みには、莫大なコストがかかってしまうからだ。それが可能になるほど想像力やエネルギー、経営ノウハウは業界内で偏って分配されているわけではない。この事実を大半の人が暗黙のうちに理解している。しかし筆者は、みずから実施した調査の結果、必ずしも全員がそれに応じた行動を取っているわけではない、という確信を抱くに至った。

セオドア・レビット『模倣戦略の優位性』
(1966年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

ではまた。

 

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