模倣戦略の実践
もし、プロダクト・ライフサイクルとか、イノベーター理論とか、キャズム理論という言葉を知らなかったとしたら、
ちょっとネットで調べてみて、知識として”かじっておく”ことをお勧めします。
知ったからといって、スグに効果があるような知識ではないですが、
少なくともマーケティング的なことを考えるうえで、これらを知識として知っているのと、知らないのとでは、
大きく異なります。
―― 引用ここから ―――――――――
『模倣戦略の実践』
次に、模倣品の計画および創造の積極的アプローチ――筆者は「イノベーティブ・イミテーション戦略」と呼んでいる――の概要を述べよう。
説明を簡単にするために、イノベーターが発表する(新の意味での)新製品は「典型的なプロダクト・ライフ・サイクル」に示されたように、だいたい標準的な曲線を描いて最終的には成功すると想定しよう。製品は、原点ゼロの時点で発表される。
競合X社がいち早くその存在に気づく。ただし、この価格帯の製品が、市場全体で月間2万個以上売れると予想されない限り市場参入しない、とX社が決めていると想定しよう。3万個を超えれば、きわめて魅力的な市場と見る。
イノベーションが初めて姿を現すと、X社のような企業――同社製品には大規模な設備投資と多額のリバース・エンジニアリング費、多大な時間を要する――は、通常次のようなパターンを示す。
- ゼロ年度には、意志決定者たる経営者は、単にこう述べるだけだ。「売れるかどうか怪しいものだ。まあ、目を離さずにおこう」。
- 初年度(業界と状況によっては6カ月後)には、意志決定を下すべきX社は、製品がまだ生き延びているのに少々驚く。それでも、「なあに、小さな市場にしがみついているだけでうまくいくはずないさ。そう言っただろう」というのがこの時点での典型的なコメントである。
- 2年度には、次のように展開する。「少し売れてきたようだぞ。どうやらY社も参入するそうだ。2社がやっていけるほど市場は大きくないから、これでおしまいだな」
- 3年度には、明らかに右上がりの伸びを示していることに多少いらついてきて、次のような反応を示す。「ジョージ、ちょっと気をつけた方がいいんじゃないか。君の部下にすぐ調べるように言ってくれ」
- 3年度と4年度の間にある時点で大規模な緊急計画に着手する。
- 5年度になって、ようやくX社は、他の6社と共に市場に参入する。
何が起きたのか、振り返ってみよう。ゼロ年度の時点でX社はこの製品の成功確率をゼロパーセントと見ていた。模倣品の製造・販売について何ら積極的なアクションを取らなかったのだから、X社は同製品の成功確率をゼロパーセントと判断していたといえる。わずかながらでも成功する確率があるとしていたら、たとえ試験的な方法にせよ、何らかの模倣的手段が講じられていたはずである。しかし、この時点はもちろん、初年度、二年度においても動こうとはしなかった。各年度において、X社は常にイノベーターの成功確率をゼロパーセントとしたアクションを取った。
ここで重要なのは、X社の意志決定者が3年度に至って大いに不安を感じながらも、実際には成功確率を依然ゼロパーセントとしていたことである。「ジョージ、ちょっと気をつけたほうがいいんじゃないか。君の部下にすぐに調べるように言ってくれ」という発言に見られるように、明らかに心配しながらも、3年度に至ってはなおX社は、成功確率をゼロパーセントと見ていた。というのは、模倣において最も複雑かつ時間のかかる仕事、すなわちリバース・エンジニアリングに取り組もうとしなかったことから伺える。
製品をつくるのであれば、最も時間と労力を要すると考えられる段階で何の対策も講じないというのは嘘だ。イノベーターの成功確率を常にゼロパーセントと見ていたために、あえて危険を防ぐ手段を講じなかったのである。
セオドア・レビット『模倣戦略の優位性』
(1966年ハーバード・ビジネス・レビューより)
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ではまた。