創造的模倣者の価値を正当に評価する
今回で、『模倣戦略の優位性』は完結です。
現代では、模倣戦略自体は、1960年代と比べれば積極的に取り入れられていることでしょう。
ただ、ヒットしたら儲け話に飛びつくような感じで、
レビット博士のいう計画的模倣とは程遠いように、感じます。
一般的な捉え方でいう”あなたの業界”に、新しい流行りがきたとします。
それに飛びつくのか、様子をみるのか。
どういった基準で判断するでしょうか?
―― 引用ここから ―――――――――
『創造的模倣者の価値を正当に評価する』
イノベーションや新製品の開発、あるいは新しい特徴・スタイル・パッケージ・価格設定による既存設定による既存商品の延命と市場拡大――これらはすべて、現代企業が戦闘手段として蓄えてきたものばかりである。イノベーションは我々の社会にふんだんにあるが、多くの人が思うほど豊富にあるものではないかもしれない。1人のイノベーターが最初に発表した新製品が、数年後に大量に出回り、注目を集めるようになると、実はまったくの模倣であったにもかかわらず、それをイノベーションと見誤るからだ。
イノベーションよりも模倣がはるかに多いことは、簡単な計算をすればすぐにわかる。真の意味で新製品やプロセス、あるいはサービスは通常1人のイノベーターの考案によるものだが、後にそれを模倣する人間は数知れないからだ。一企業が常にイノベーターであり続けるのは不可能で、時には模倣者にならざるをえない。
イノベーションにつきまとうリスクは広く認識されているが、模倣にまつわるそれは不十分である。ある企業が多数の競業他社と同時に、模倣品を市場に投入するリスクはきわめて大きい。
イノベーションを身上とする企業ならば、成果主義による大胆な報酬制度を導入できよう。称賛、高い評価、昇進は明らかにイノベーティブな人間に与えられるし、そうあってしかるべきである。
ここで留意すべきは、考えられるマイナス面である。模倣手段を頻繁に提案する人を価値がないとか、能力が劣っていると見る環境は最も不幸な負の結果といえよう。このような環境下では、たとえ早期に模倣手段に訴えたからこそ今日の成功がある事実が存在していたにしても、社員は模倣戦略を意識して避けるだろう。
したがって、きちんとしたかたちで模倣戦略を支持する方策があれば、必要な模倣活動を早期に実行に移せるばかりか、イノベーターのみならず、創造的模倣者の価値を企業全体に広く知らせることになるだろう。これにより、計画的な模倣思考は、魅力的なイノベーティブ思考と同様に正当化される。
だからこそイノベーティブな模倣を生み出す方法を明快かつ入念に練り上げることは、イノベーションそのものと同様に有意義である。そのような施策には、模倣者の損失防御策が強く強く求められることになろう。この提案はその目新しさゆえに、奇妙でいささか専門的に響くかもしれないが、すでに関連分野で行っていることに比べてみるとよい。保険を例に取ってみよう。損失防御策の原理とその有用性は損害賠償保険の原理と同様に一般的であり、成功と管理について予算を組むという考え方と何ら変わるところはない。
イノベーションを偽りの救世主とするのは誇張であり、模倣こそ新たな救世主とするのは誤りかもしれない。しかし、イノベーションこそ救世主と考え、計画的な模倣の持つ実現力に関する現実的評価を無視して、偏った行動に走ることのほうがさらに大きな誤りである。
セオドア・レビット『模倣戦略の優位性』
(1966年ハーバード・ビジネス・レビューより)
―― 引用ここまで ―――――――――
完結につき、以下バックナンバーです。
模倣戦略の優位性
イミテーションを見てイノベーションを知る
コストの差を考えて戦略を選択する
イノベーターであり続けるのは不可能
リバース・エンジニアリングの基準を確立すべき
「かじりかけリンゴ戦術」でリスクを最小化する
模倣も計画的に
模倣戦略の実践
模倣者の損失防御策
創造的模倣者の価値を正当に評価する