クレームで差別化する
「クレームは宝の山か? 否か? 持論を述べなさい」というのは、
私が通っていたビジネススクールで最初に取り組む課題でした。
これは、論理的思考を鍛えるためのものですので、
どちらが正解、という類のものではないのです。
とはいえ、実戦でクレームを宝の山にするのは、
相当至難の業です。
たとえばシステム・インテグレーターなど、
“御用聞き”ビジネスならば、
お客様の要望も不満も、その方がおっしゃることが
すべてのスタート地点です。
とはいえ、商品開発・サービス開発となると、
Aさんの苦情=みんなの苦情と捉えていては、
発散し過ぎて、なにもかも手がつけられません。
では、どれが捨てて、どれが拾うべき苦情なのか?
このあたりで迷うのが苦情管理あるあるですね。
さて、話が脱線しましたが、今日の題目は、
「それでも苦情は新商品・サービス開発のヒントになる」
ということです。
というわけで、今日の気になる記事を紹介したいと思います。
―― 引用ここから ―――――――――
《おいしすぎて食べ過ぎてしまう》 《外に電話しに行ったら料理が冷めていた》
ほとんど“いちゃもん”に近いこんなクレームも、新たな「ビジネスチャンス」につながると注目されている。商品やサービスに感じている消費者の不満を参考にしてヒット商品が生み出されたケースもあり、「苦情・クレームは宝の山」と、1件10円で買い取る会社まで登場。消費者は不満をぶつけて“収入”を得ることでき、企業も商品開発やサービス改善のヒントを得る。誰もが得する「win-win」の関係のようにも思えるが、はたしてその実態は。
■苦情から生まれた商品
「皆さんの不満を解決した傘がこれなんです!」
5月27日午後、大阪・難波の高島屋大阪店2階の特設会場。傘の製造販売を手がける福井洋傘(福井市)社長、橋本肇さん(53)が女性客に語りかける。
並んでいるのは1本3万円以上の高級傘。中には、奄美大島(鹿児島県)の特産品「大島紬」を使った97万2千円(税込み)の“超高級品”まであるが、売れ筋は3万~4万円の「ヌレンザ」だ。
「ぬれない傘」で「ヌレンザ」。撥水(はっすい)性が特徴のこの傘、決して名ばかりではないようだ。
機能性の高さなどが評価され、トヨタの高級ブランド「レクサス」の関連グッズ「レクサスコレクション」にも採用された実力派。しかも、橋本さんが語るように、本当に苦情・クレームから生まれた商品だったのだ。
■なんでこんな目に…
《ぬれた傘を車の中に持ち込んだら、ビチョビチョになった》
《傘を閉じても、電車の中でぬれてしまった》
こんな苦情が寄せられたのは、福井商工会議所(福井市)が平成15年から始めた「苦情・クレーム博覧会」。橋本さんは当初、「そんなこと言われても…」と戸惑ったという。
しかし、混雑した通勤電車の中では、ぬれた傘で他人に迷惑をかけることもあり、他人の傘で自分の服がぬらされることもある。傘を閉じたら水滴が全部一気に落ちるような傘ができれば、これらの問題は解決できる。傘の常識を覆す新商品の開発が始まった。
「なんでこんな目に遭わなければならないんだ」。橋本社長は壁に当たる度、何度も途方に暮れた。そんなとき、ふとハスの葉が頭をよぎったという。
ハスの葉は決してぬれることがない。葉に落ちた雨は表面張力で玉のように丸まり、水滴となって転がり落ちる。葉の表面に極めて微細な凹凸があり、水をはじいているからだ。
このハスの葉の表面構造を応用。17年1月、布地に水をはじく高密度のポリエステルを使い、閉じると瞬間に水滴をはじき、常に乾いた状態を維持する傘を販売。当初計画の3倍の売り上げを記録した。
「苦情やクレームから、まさかこんなヒット商品が生まれるなんて思ってもみなかった」。橋本さんは、貴重なヒントをくれた消費者の苦情・クレームに感謝している。
■「苦情買い取ります」
ヌレンザの“生みの親”となった「苦情・クレーム博覧会」のキャッチフレーズは「あなたの苦情、買います」。1050円を支払った閲覧者が500円(1票100円)分の投票権を持ち、企業の商品開発やサービス改善に有益な意見に投票。有益な意見を寄せた人は得票ごとに100円を得る仕組みだ。
福井商工会議所の担当者は「大企業ならお客さまの声を生かして商品開発できるが、中小企業にはない。そういう商品開発につながればと、お客さまの声を集めようとした」と明かす。
この博覧会から生まれたヒット商品はまだある。
「まさに苦情は宝の山だった」と語るのは、軟質ビニールを使った浮輪やボートなどを製造しているヒオキ(岐阜県瑞穂市)の営業課長、日置武志さん(47)。新商品開発を社内で議論しても、どうしてもメーカーサイドの発想になってしまい、アイデアが枯渇していたという。
《遊んだ後、浮輪を片付けるのが大変。空気を抜くのも時間がかかる》
ヒット商品のきっかけはこんな苦情だった。空気栓の根本を指でつまめば、空気がゆっくり抜けるようになっているが、「指が痛い」という苦情もあった。
そこで空気抜き専用の大きな栓を設置。コストも余計かかり価格も上げざるを得なかったが、売れ行きは好調で、その後、従来の空気栓を改良。空気を抜きやすくして商品化した。売り上げは2割も伸びた。
「空気栓の構造を知らない人の苦情と思っていたが、そうではなかった。消費者の声に『なるほど』と思った」と、日置さんは振り返る。
iza産経デジタル
『「苦情」から生まれるヒット商品、クレーム「10円」で買い取る業者も』
http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/140624/ecn14062410560010-n1.html
―― 引用ここまで ―――――――――
と、いうことです。
気付いてみれば、当たり前。
アイデア商品といわれるものも、
そのような事例に溢れています。
ただ、「気付かない」のですけれど。
世紀の大発明のひとつである
ハンバーガーという食品について。
パン(紀元前~)も、ハンバーグ(14世紀?~) も、
ずいぶんと昔からありましたが、
パンにハンバーグを挟む、ということに気づいたのは、
ほんの100年ほど前のことです。
それだけ、「気付かない」ということです。
とはいえ、この言葉の本当の活用法は、
「わたしたちが気付いていないだけで、
目の前にはチャンスだらけ」
ということです。
歴史的にみても、
独自のウリ(USP)の事例として、よく取り上げられる
「できたてアツアツのピザを30分以内にお届けします。
さもなければお代はいただきません」
というドミノピザのキャッチコピーは、
まさしく苦情から生まれたサービスです。
その他でも、ニッチ産業といわれるものは、
そのほとんどが「自分に合うものがない」という
苦情(というより不満)が発想の発端になります。
ですから、あなた自身に寄せられた苦情・クレームでなくても、
同業者に寄せられる苦情・不満ならば、アイデアの種になりますし、
間接競合への苦情・不満も、同様にアイデアの種になります。
この視点で、ターゲット顧客の“不満”に着目してみましょう。
ハッキリ言って、地味です。
ですが、こういう地味な積み重ねが、差別化の源泉に繋がります。