PC市場にみる、市場崩壊シナリオと生き残り戦略

別に予言でもなんでもありませんが、近い将来PC市場は壊れます。
(念のため、PC=パソコンのことです・・)

7月1日、ソニーから分離した「VAIO」ブランドのPC専門会社、VAIO株式会社が誕生しました。
何を隠そう、私はVAIOユーザーなので、個人的にはVAIO株式会社の奮闘には期待するのですが・・・
正直、かなり厳しい状況が続くことが予想されます。

PC市場は厳しいと言われ続けていますが、その要因のひとつが、スマートフォンやタブレットの普及です。
誤解を恐れずに、極めて簡略化すると、インターネットをするための道具として、PCが必ずしも必要ではなくなった、ということです。

ですが、
私に言わせれば、PC市場が壊れると理由は、そこではありません。

―― 引用ここから ―――――――――

【ワシントン=小川義也】米マイクロソフト(MS)は14日、基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」を搭載した米ヒューレット・パッカード(HP)製のノートパソコン「ストリーム」を発表した。価格は199ドル(約2万円)と、ウィンドウズ搭載PCとしては最低水準。米グーグルのOS「クロームOS」を搭載した低価格PC「クロームブック」に対抗する。

ワシントンで開催中の取引先向け会議「WPC」で、ケビン・ターナー最高執行責任者(COO)が発表した。画面サイズなど詳細は明らかにしていないが、今年の年末商戦に合わせて発売する。これとは別に、画面サイズが7、8型の端末をHPが99ドルで提供する計画があることも明らかにした。

ターナー氏は「我々はクロームブックよりも高い価値を顧客に提案できる。低価格帯のPC市場は誰にも譲りはしない」と強調。東芝と台湾の宏碁(エイサー)がそれぞれ249ドルで発売するノートPCも紹介した。

MSは4月にスマートフォン(スマホ)と画面サイズ9型以下のタブレット(多機能携帯端末)向けのウィンドウズを無償化すると発表した。米国で200~300ドル前後で販売されているクロームブック人気を受け、画面がより大きなPC向けについてもライセンス料を値下げしている。

日本経済新聞『2万円のノートパソコン 米マイクロソフト、グーグルに対抗』
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ1506T_V10C14A7TI0000/

―― 引用ここまで ―――――――――

クロームブック(Chromebook)というのは、グーグル(Google)が作っている激安PCです。

ちなみに、クロームブックでは、Office(Microsoft製)やPhotoshop(Adobe製の画像編集ソフト)、iTunes(Apple製のメディア再生ソフト)などが利用できないそうです。

これらから透けて見えるグーグルの狙いは、PCを売って利益を出すことではありません。
グーグル指定のアプリを利用させることです。

もちろん、マイクロソフトもそうはさせないとばかりに、今回のストリーム(HP Stream)の発表に踏み切ったことは明白です。

そして、PC本体を2万円とかの値段で商売をされてしまっては、PCメーカーの立場からしたら、堪ったものではありません。

ここで市場の破壊者である、グーグルとマイクロソフトの儲けのポイントに注目してください。
両者とも、そもそもPCメーカーではありません。
だからこそ、こういうマネが出来ます。
極端なハナシ、そのうちPCは無料配布されてもおかしくありません。

その昔、ADSL用のブロードバンドルーターが無料で配られたり、
携帯電話端末が1円だったりしました。
あれと、基本的には同じ構図です。

喩えれば、蛇口を配って、水道料金で儲けるビジネスです。
水道料金で儲けることができる側が、蛇口の側の市場を壊します。

このような市場破壊は、すべての市場で、発生し得るものです。

“いま、そうではない市場”は、
“まだ、そうはなっていないが、いずれそうなる市場”とは
考えられないでしょうか?

さて・・・

あなたの市場で、このような市場破壊が迫っているとしたら、
どのような対策を練るでしょうか?

もしくは、あなた自身が国内PCメーカーだったとしたら、
いずれ上陸するクロームブックやストリームという“黒船”に対して、
どのような対策を練りますか?

参考までに、実際の国内PCメーカーも対策の記事をご紹介します。

―― 引用ここから ―――――――――

国内PCメーカーとしてパソコン市場のシェアを2分するNECパーソナルコンピュータと富士通が、異なる戦略を打ち始めた。

富士通は、2013年度から、「春」「夏」「秋冬」と呼ばれる年3回にわたって行われてきた全モデルのラインアップ一新による新製品投入をとりやめる一方、女性向けやアクティブシニア向けといったターゲット層を明確化した製品投入を開始している。

これに対して、NECパーソナルコンピュータは年3回の新製品への一新というサイクルを従来通り継続。さらにライフスタイル別の提案をする製品戦略を加速する。

なぜ、両社の方針に差ができたのだろうか。

■「CPUの進化とHD容量変更だけで新製品とする手法に疑問」

富士通の齋藤邦彰執行役員常務は、「今後は、春モデル、夏モデル、秋冬モデルという年3回の新製品投入サイクルにはこだわらない」と明言する。

実際に同社は2013年度、シーズンごとの新製品投入時期に全モデルを一新するという方法を取りやめ、一部製品を継続モデルとして販売している。

「これまでのように、同じサイクルで、年3回にそれぞれ新製品を出すことが、本当にお客様にとっていいことなのだろうか。また、CPUの進化と、ハードディスクの容量を変えるだけで、新製品とする手法でいいのか。そうしたことを考えると改善の余地が大いにあるという結論に行き着いた」と語る。同時にカラーバリエーション展開も一気に絞り込んでいる。

この考え方の根底にあるのは、お客様に価値を与えられる「とき」、お客様に価値を与えられる「もの」、お客様に価値を与えられる「こと」という3点をとらえ、そこにフォーカスした製品投入を行うという姿勢だ。

明確な機能進化や新たな提案ができるものだけを、新製品として投入していくという戦略に大きく舵を切ったといえる。

■単にアクティブシニア向けや女性向けの製品を作ったのではない

この考え方は、利用ユーザーを具体的に絞り込んだ「Floral Kiss」や「GRANNOTE」にも言えることだ。

「GRANNOTE」は“大人世代向け”、すなわちアクティブシニア向けの製品。そして「Floral Kiss」は女性向けをコンセプトに開発した製品で、第1弾は2012年11月に登場。2014年5月23日に第2弾製品が登場したばかりだ。

「Floral Kissの第2弾製品が登場するまでに時間を要したのは、女性にとって世界一のPCを作ることができるかどうかという点で、検証に時間をかけたため」と同社では説明する。発売から半年間は購入者を徹底的に検証。それをもとに商品企画を開始した。

齋藤執行役員常務は「Floral KissもGRANNOTEも、単に女性向け、アクティブシニア向けという製品を作ったのではない。ターゲットとしたユーザーがそれを使うことで、心地よいとか、気分がアガるとか、あるいは長時間使っていても疲れないなど、利用者の気持ちや使い心地にも訴えるものでなくてはならない。これからは明確な強みを発揮できる製品を投入することが、求められる」とする。

■「年3回の新製品投入継続はトップシェアメーカーの役割」

一方、NECパーソナルコンピュータは、毎シーズンの製品ラインアップ一新を継続する。

NECパーソナルコンピュータの留目真伸取締役執行役員常務は、「シーズンごとに、なにかしらバージョンアップの要素がある。それを具現化した形で新製品を投入し続けていく」と語る。

NECパーソナルコンピュータは、2011年7月に、レノボとのジョイントベンチャーをスタート。ちょうど3年を経過したところだ。同社のコンシューマー向けPCの年間出荷台数は、200万台以下に留まっているが、それでもレノボのグローバルでの調達力を生かして、コスト構造を大きく改革。コンシューマー向けPCの開発投資を加速してきた経緯がある。

留目取締役執行役員常務は、「NECパーソナルコンピュータは、これまで以上に、コンシューマPCに対する開発投資を強化する。それによって、年3回の新製品投入を継続できる。継続することがPC市場の活性化につながる。それがトップシェアメーカーの役割だ」とする。

そして、ライフスタイルを前提とした形で製品を展開。モバイル用途を想定して軽量化と高性能化を両立したLaVie Zシリーズ、電源オンから2秒でテレビ画面を表示し、ヤマハとの連携により高音質を追求したVALUESTAR Nなどは、その最たるものだといえよう。

富士通が展開するターゲットを絞り込む製品展開については、「面白いコンセプトである」と前置きしながらも、「NECパーソナルコンピュータでは、モバイル用途に最適化したもの、家の中で利用するユーザーに最適化したものというように、ライフスタイルごとの切り口で提案をしている。そうしたライフスタイル提案の軸のなかに、女性向けや、アクティブシニア向けというような別の軸の提案を組み合わせることでの効果が見えない。当社では、ターゲットを絞り込んだ提案は考えていない」とする。

■ソニーVAIOの穴を埋められるのは、NECや富士通か?

このように両社の姿勢は大きく異なっている。

だが共通点もある。それは、PCメーカーとしての「PCづくり」への危機感だ。

タブレットやスマートフォンの伸張もあり、今後、PC市場の成長は鈍化すると見られている。そうしたなか、PCとしてなにができるのかということや、PCの役割やポジションを改めて明確化することが重要になってくる。

奇しくも両社のトップからは、こうした狙いを裏付ける同じ言葉が聞かれた。

それは、「撤退したソニーの穴を埋めるのは、国内PCメーカーの役割」というものだ。

■「ソニーらしさ」に代わるのはVAIO株式会社やアップルか?

ソニーは、2014年2月、PC事業の売却を発表。7月1日からは、同事業を継承する形で、投資ファンドの日本産業パートナーズが95%を出資したVAIO株式会社がスタートした。

これまで国内コンシューマPC市場の約8%のシェアを保持していたソニーのVAIOは、そのまま新会社が継承するのが妥当なのだろうが、一時的にVAIOの展示コーナーが閉鎖されたり、7月以降もVAIO株式会社による量販店展開が本格化しないなかで、量販店店頭の売り場を支える意味でも、国内PCメーカーからの提案に、量販店から期待の声が集まっているという。

両社も量販店側からソニーの穴を埋めるような展示に関する要請があることを明かし、ソニーVAIOの穴を埋めることが、PC市場の活性化につながるとの見解を示す。

「(VAIOの穴を)埋めることができるのは、やはり日本のユーザーに向けた製品を投入することができるメーカーになる」(NECパーソナルコンピュータ 留目取締役執行役員常務)、「すでにソニーのシェアの一部は富士通が獲得している。MADE IN JAPANの品質が評価されている」(富士通 齋藤執行役員常務)という発言からも、ポスト・ソニーにむけた動きが加速していることが分かる。

もちろんVAIO株式会社も、コンシューマーPC市場でのシェア獲得に向けての準備に余念がなく、「まずは、VAIO Pro 11/13およびVAIO Fit 15Eに限定するが、年度内には、一点突破のVAIOらしい製品を投入する」(VAIO 赤羽良介執行役員副社長)と意気込む。

だが、ソニーのVAIOは「ソニーらしい」製品として人気を博していたPCだ。そこを、「NECらしいPC」、「富士通らしいPC」で置き換えることは難しいのではないだろうか。最も近い距離にいるのは、VAIOのDNAを受け継ぎ、「VAIOらしいPC」を投入できるVAIO株式会社。そして、デザイン性で高い評価を持つアップルということになるだろう。

かつて、NECのPC事業を率いていたある幹部は、社内でNECらしいPCを開発するという議論を聞いて、「世の中でNECらしいと聞いて、多くの人が感じるのは、デザイン性に劣ること。NECらしいPCを作るということは目標にならない」と言い放ったという。

ソニーのVAIOを置き換えるには、いまのままの「NECらしいPC」、「富士通らしいPC」では限界があるといえまいか。

日経トレンディネット「ソニーVAIO」の穴をNECや富士通は埋められるのか?
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20140710/1058984/

―― 引用ここまで ―――――――――

“VAIOの穴”という言葉自体に、見ている世界の広さが伺えますが、
なんとか奮闘を期待したいものです。

公正を期すため、私の意見というかアドバイスを書いておきますと・・

・セオドア・レビット博士の「マーケティング近視眼」を読んだ方がよい。

・このご時世、タブレット端末にも、MacBook Airにも「NO」というPCユーザーが、
なぜ、NOというのか、その理由をきちんとリサーチした方がよい。

・その結果、ライフスタイルごととか、アクティブシニアとか、女性向けとか
そのレベルの漠然としたターゲットの絞り込みではなく、
もっとニッチで、マニア心をくすぐる尖りまくった製品を開発した方がよい。
たとえば、ガンガン持ち歩くヒト向け、ゾウが踏んでも壊れないPCとか。

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