ミニストップの差別化が真似されない理由
コンビニ繋がりの記事をご紹介したいと思います。
競合の真似が横行するコンビニ業界において、真似されることなく、
コンビニブランドの差別化を助けているミニストップのソフトクリーム、
その秘密に迫った記事です。
―― 引用ここから ―――――――――
「セブン-イレブンがコーヒーの販売を始めたぞ。ウチはいつできる?」「ローソンがスイーツにチカラを入れてるぞ。ウチはいつできる?」――。
コンビニ業界でこのような会話は、日常茶飯事に行われている。競合他社が真似(まね)できないモノ・サービスをつくる――。独自の商品を開発することは自社の強みになるが、コンビニ業界でそこにこだわり過ぎると、スピード競争に負けてしまう。少しヒットしただけで、すぐに競合他社が同じような商品を出してくるのだ。
ここ数年を振り返ってみても、コーヒーがヒットすれば各社はこぞって同じような商品を販売する。スイーツがヒットすれば、各社は同じようなメニューをそろえる。もちろん細かく見れば違いはあるが、大きな違いはない。しかし、ミニストップのソフトクリームは違う。長年販売しているところをみると、そこそこ売れているはずなのに(売上非公表)、セブン-イレブンもローソンもファミリーマートも真似しない。なぜか?
その謎を解くために、ミニストップ・社長室の山盛雅美さんに話を聞いた。競合他社はソフトクリームを販売したいのに、できないのか。それとも販売できるのに、あえて手を出さないのか。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。
土肥: ミニストップといえば「ソフトクリーム」を想像する人が多いと思うんですよ。というのも、お店の前にコーンの縁がフリフリになっているオブジェが置いていますよね。アレを見るたびに「このコンビニはソフトクリームにチカラを入れているなあ」と感じるんですよ。
今回の取材にあたって、ちょっと調べたところ、ソフトクリームは創業当初の1980年から販売しているそうですね。以降、ずっと販売されているわけですが、やはり創業当初もいわゆる看板商品だったのでしょうか?
山盛: いえ、実は違うんですよ。ミニストップは1980年創業ということで、コンビニ界では後発組。競合他社と同じようなスタイルの店舗を出しても、なかなか特徴が出せません。じゃあ、どうしようか? と考えた結果、「コンビニ+ファストフード」のような店舗を出すことにしました。で、最初の看板商品は、フライドチキンとサンドイッチでした。サンドイッチは店内でパンを切って、ハムやレタスなどを挟んで販売していました。
土肥: 当時の写真を見ると、まるでファストフードですね。コンビニの雰囲気がまるでない。
山盛: ですよね。で、なぜソフトクリームを販売したかというと、70年代後半に第二次ソフトクリームブームがきていたんですよ。人気はありましたが、今と違ってあまり売られていませんでした。そういった環境だったので、「近くのコンビニで気軽に買うことができれば、売れるのでは」という読みがあって、販売することにしました。
土肥: ソフトクリームのブームがきてるし、コンビニで販売したら売れるだろう、と見込んだわけですね。結果、爆発的に売れて、今では看板商品になったわけですね。
山盛: いえ、ハッキリ言って、売れませんでした(涙)。売れない時期が長く続いたので、「もう止めようか……」という話になりました。でも、当時の担当者が「ここであきらめてはいけない。競合他社はどこも販売していないので、ソフトクリームの品質をアップすれば、必ず売れる」と言いました。
そして、1991年に乳原料の配合率をアップさせ、ミルク感の強いバニラにしました。それがものすごく売れて。
土肥: えっ、ということは、最初のソフトクリームは苦戦していたにもかかわらず、10年以上も我慢していたわけですか?
山盛: ソフトクリームをつくる機械は変更しましたが、味を変えたのはこのときが初めてですね。
土肥: 「四半期中に結果を出せ!」という企業が多い中で、よく11年間も我慢しましたね。それにしても、「品質をアップさせて売り続けよう」という決断は大きいですね。繰り返しになりますが、今では「ミニストップ=ソフトクリーム」のイメージが強い。コンビニ業界は大手3社が強い中で、いまミニストップにソフトクリームという武器がなければ、なかなか存在感を示すことができなかったのではないでしょうか。
山盛: でしょうね。
土肥: 今ではソフトクリームのバニラを使って、パフェやハロハロなど横展開をされています。また、2002年には「ベルギーチョコソフト」を販売されて、ものすごく売れています。コンビニといえば、PBなどでヒット商品が出ると、すぐに競合他社が真似しますよね。コンビニを専門にしている、あるコンサルタントは「コンビニは真似の歴史だ」とも言っていました。堂々と真似をする業界なのに、なぜソフトクリームは真似されないのでしょうか? ひょっとして、もうかっていないとか? (失礼)
山盛: 競合他社は真似したくても、真似できないのではないでしょうか。その理由を説明するのに、昔の話を少しさせてください。
創業当社からソフトクリームを販売していましたが、当初のモノはうずを何重も巻かなければいけませんでした。キレイなうずを巻いたソフトクリームをつくるのは技術が必要です。しかし、コンビニにはアルバイトが多い。経験が浅い人でもソフトクリームをつくらなければいけないのですが、うまくつくるのは難しい。
また当時の機械はメンテナンスのために、タンクに入っている原料を毎日捨てなければいけませんでした。そうなると、廃棄ロスが増えてしまって→もうけが少なくなって→つくらなくなって……という悪循環に陥りました。
これではいけない、ということで機械を変えました。タンクを2つにすることで、バニラ以外のフレーバーも販売できるようになりました。また、コーンを今のようなハナビラ型に変えたので、うずを高く巻かなくてもよくなりました。そうすることによって、廃棄ロスが減ったんですよね。ただ、それでも完全にロスがなくなるわけではありません。
土肥: どういうことでしょうか?
山盛: ソフトクリームをつくるのは難しいんですよ。例えば、機械を一定の時間使わなければ、ソフトクリームが出にくくなります。ソフトクリームというのは空気と水で冷やしているので、きちんとした時間を守らなければ、キレイなモノができないんですよね。
またソフトクリームをつくるにあたって、高さと重さは決まっています。大きいモノが出てくるとお客さまは喜ばれるかもしれませんが、きちんとした量を提供しているお店にクレームが入ってしまう。「なぜ、お前のところの店のソフトは小さいんだ!」と。そうしたクレームが出ないように、同じ高さ、同じ重さにしなければいけません。
ちなみに、新入社員は4月に各店舗に配属されますが、初めての試験が5月にあります。この試験では、ソフトクリームの実技試験があるんですよ。ペーパー試験に合格しても、実技が不合格だとダメ。この試験に受からないと、次のステップに進めません。なので弊社の社員はソフトクリームをつくるのが上手なんですよ(笑)。
土肥: 実技試験があるとは。そんなに難しいのですか?
山盛: 難しいですね。高さ、重さ、形――すべてが難しい。また機械の状況によって、固くなりやすかったり、柔らかくなりやすかったりするので、そうした状況を考えながら、つくっていかなければいけません。
土肥: ワタシの知り合いが某コンビニで店長をしているのですが、その人は以前、お店でソフトクリームをつくっていました。でも、しばらくして止めちゃいました。
山盛: ソフトクリームを販売し続けるのは難しいんですよ。まず管轄の保健所に申請書を提出しなければいけません。また厨房に機械を設置しなければいけないので、そのスペースが必要になります。さらに機械のメンテナンスが大変で、これにはノウハウが必要となってきます。
このように「ソフトクリームでもやればもうかるだろう」と思っても、すぐにはできません。また機械のメンテナンスやアルバイトの技術も必要になってくるので、続けることが難しい。
土肥: なるほど。ということは、競合他社はソフトクリ―ムを始めようと思っても、なかなかできないわけですね。全店でスタート……と思っても、すべてのオーナーに試験を受けてもらわなければいけない。また店内スペースの問題などを考えると……かなりハードルが高いですね。
土肥: ミニストップのソフトクリームはこれまで、10年に1回のペースで変更されてきました。1980年が初代、1991年が2代目、2001年が3代目、2011年が4代目だったのですが、2014年に5代目が発売されました。4代目と5代目の間が3年間しかないということは、4代目の味が不評だったとか?
山盛: そうではありません。お客さまの嗜好の変化のスピードが速くなっていまして。2011年に変更する前は、スッキリした味が好まれていました。なので、北海道産純生クリームを増やして、自然な味わいにしました。しかしのちに、濃厚ブームがやってきました。お菓子やカップめんなどにも濃厚を強調する商品が増えていくなかで、社内から「このままでいいのか?」という疑問の声があがり始めました。
そして、2013年に期間限定で「北海道プレミアムソフト」を販売。これは濃厚な味わいで、ものすごく売れました。こうした結果を受けて、2014年に濃厚な味に変更しました。
土肥: アイスに濃厚ブームが来ているのであれば分かるのですが、他の商品群で濃厚なモノが売れているからといってそれがソフトクリームにも影響してくるのでしょうか?
山盛: 影響しますね。ただ、あまりにも濃厚すぎると夏に売れなくなってしまいます。ソフトクリームのバニラはパフェなどのトッピングにも使いますので、引き立て役になって邪魔にならない味にしました。
土肥: 今後も味の変更は、どんどん仕掛けていく予定ですか?
山盛: そうなると思います。以前のように10年に1回というペースだと、お客さまに離れられてしまうかもしれません。また、昔はソフトクリームを食べれる場所が少なかったですよね。でも、今はいろいろな所で食べることができます。さらに、世の中においしいモノが増えてきました。こうした環境の中で、選んでもらわなければいけません。そう考えると、10年に1回は長いかなと。
土肥: なるほど。本日はありがとうございました。
Business Media 誠『なぜミニストップのソフトクリームは真似されないのか』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1405/21/news008.html
―― 引用ここまで ―――――――――
差別化を持続させるコツは、そもそも競合が“できないこと”をすることです。
この“できないこと”には、2つの意味があって、
ひとつは、そもそも資金力やスキル・ノウハウの問題で“実現できない”こと
もうひとつは、やる気になれば出来るけど、面倒で“継続できない”こと
です。
ミニストップのソフトクリームの場合は、後者が効いています。
記事のなかにもでてきていますが、
競合も数店舗展開するならば真似はできるでしょう。
ソフトクリームを作る技術は、簡単ではないかもしれませんが、
鰻職人のように「串打ち三年・・・」というほどのものではありません。
高速道路のサービスエリアに留まれば、
普通にアルバイトスタッフの方がソフトクリームを提供してくれます。
ですが、コンビニで全店展開するとなると、
スペースや教育の問題が“面倒”になってきます。
それをするくらいならば、コーヒーのように、自動でソフトクリームが
出てくるようなマシンを開発した方が早い、という結論に行きそうです。
これは、簡単なコトを組み合わせることによって複雑になり、
真似しづらくなる、ということの実例でしょう。
たとえば、好調なビジネスほど、既存客のフォローにチカラを入れています。
季節ごとに挨拶レターが届き、誕生日にはお祝いレターが届き、といった具合です。
もちろん、これらはなにも難しいことはありません。
顧客数が数名ならば、面倒でもないことでしょう。
しかし、顧客数が10、100、1,000と増えてきたら・・・。
とはいえ、これを諦めずに繰り返すことで、
ノウハウも溜まり、自ずと効率化もなされて、
いつの間にか競合が真似できないこと、になります。
加えていうならば、
「ひとが続けるのが苦痛なことを、苦もなく続けられることが才能だ」
というような趣旨の言葉があります。
たとえば、ある飲食店では、
テーブルの上に一輪ざしを置いて、毎日、花を変えていました。
女将さんが、花が好きだからだそうです。
女将さん本人は、まったく苦にしていません。
そして飲食店ですから、料理の味にも量にも値段にも関係ありません。
しかし、常連さんは「いつも花がきれいだから」という理由で来店しています。
味も量も値段も、“足切りライン“はクリアしていますが、
突出しているワケではありません。
常連さんがその飲食店を選ぶ理由(他店との差別化された魅力)は、
女将の積み重ねた一輪ざしだったのです。
ですから、あなたが普通にやっていること・できていることで、
競合がそれを続けていられないのだとしたら、
そこに差別化のヒントが隠れている可能性があります。