マクドナルドの戦略はブレているのか?
ちょうど週末にご紹介したレビット博士の論文で、
1970年代のマクドナルドの状況をご紹介した関係で、
現状の日本のマクドナルドのニュースが気になってしまいます。
そこでご紹介するのが本日の記事です。
―― 引用ここから ―――――――――
中国製鶏肉の品質問題に続き、商品代金の取り過ぎまで発覚して消費者の信頼を大きく失墜させてしまった日本マクドナルド。来店客数が直近14か月連続で前年比マイナスを続けていることは当サイトでも報じた通りだが、このまま加速する“客離れ”を食い止められなければ同社の業績回復は望めない。
しかし、客数減にさらなる追い打ちをかけてしまいそうな懸念材料もある。8月1日から国内すべての店舗(3135店)で実施している「全席禁煙化」だ。
これまで店内喫煙に関するマックのスタンスは、分煙化の推進だった。
<それぞれの店舗では、店舗をご利用されるお客様のニーズを踏まえて、禁煙や時間帯あるいは曜日によっての分煙を実施いたしております>(以前の同社HPより)
喫煙スペースはタバコの煙が漏れないよう、天井から床まで四方を仕切った席を設ける店舗が多く、愛煙家のビジネスマンやシニア層の“憩いの場”となっていた側面もある。事実、こんな声が聞かれた。
「毎朝、散歩がてらにスポーツ新聞を買い、マックで一服しながらコーヒーを飲むのが定年後の日課になっていました。コーヒーの味も数年前のリニューアルで深みが増して気に入っていたのに……。7月に突如タバコが吸えなくなってからは、駅前のコーヒーチェーンに行っています」(千葉県在住・60代男性)
同社は全席禁煙を決めた理由について、<お子様連れを含むすべてのお客様に、よりきれいな空気と健康に配慮した環境のなかでお食事をお楽しみいただけるよう配慮してまいります>とコメントしている。
確かに今期の業績テコ入れ策として、キッズ・ファミリー客をターゲットに店舗改装や子供向けセットメニューの拡充を図ってきた同社にとって、全席禁煙はイメージ戦略上も必須だったのかもしれない。
だが、急激な方針転換に疑問を投げかける向きもある。過去にハンバーガーチェーンの立ち上げにも関わった経験を持つフードコンサルタントの白根智彦氏はこんな見方をする。
「マックは4年前から禁煙化を進めてきたと説明していますが、この4年間はスターバックスをはじめとするコーヒーチェーンやコンビニコーヒーなどの台頭で『カフェブーム』が盛り上がっています。
マックもご多分に漏れず“プレミアムコーヒー”や“マックカフェ”などデザートメニューを増やして客数アップのけん引役にしてきました。分煙対策を進めたのも、カフェ化の強化でリピーターを増やそうとしていたからです。
それが、今になって急に全席禁煙を打ち出したのは、中国問題を受けて品質・環境問題をアピールする必要に迫られたのはミエミエ。あまりにもマーケティング戦略がブレ過ぎていると言わざるを得ません」(白根氏)
マックはこれまで低価格商品を武器にあらゆる客層を呼び込んで高成長を続けてきた。苦境に喘ぐいま、禁煙化で自ら客層を絞ってしまえば、ますます他社との競争力も失いかねない。白根氏が続ける。
「バーガーチェーンではモスバーガーだって分煙スペースを残していますし、ファミレスのロイヤルホストも席は禁煙ですが店の入り口付近に喫煙部屋を設けている店舗があります。駅の構内ではタバコを吸う権利を得るためにコーヒー代を払って店に入る人も多いのが現状です。
飲食店の分煙化は時代の流れです。喫煙・非喫煙者どちらも同じ顧客でしょう。売り上げ確保のためには、両者へ配慮するのは当然のことです。そんな中、マックはただでさえ客離れに歯止めがかからないうえに、少数派とはいえ喫煙客を排除してしまったら、それこそ来店動機は薄れる一方です」
信頼回復を目指しているマクドナルドだが、サービススローガンでは“すべてをお客様のために”とうたっている。ならば、喫煙・非喫煙者の双方に配慮する手立てはなかったのだろうか。今回の全店での全席禁煙化はそのスローガンと矛盾してはいないだろうか。
NEWSポストセブン『マックの全席禁煙「cafe戦略のブレで来店動機薄れる」と識者』
http://www.news-postseven.com/archives/20140905_274590.html
―― 引用ここまで ―――――――――
いまの日本マクドナルドは、外食産業界に君臨する巨人中の巨人です。
強者は叩かれてナンボですから、なにをやっても批判記事が出ることでしょう。
さて、今回の記事を戦略の視点でみてみると、どのようなことが言えるでしょうか?
“一般的に”いえばターゲットを絞ることは何も悪いことではありません。
全席禁煙にすることよって失われる客から売上(喫煙所利用)と、
全席禁煙にすることで得られる客からの売上(主にファミリー)と、
計測して秤にかけてしまえば、どちらにすべきかは明白です。
マクドナルド内部には、関連して回転率などの情報もあるでしょうから、
店内喫煙による目に見えるデメリットや目に見えないデメリットも
全部わかった上での判断だと思います。
café戦略がどうこう言うよりは、喫煙所としての利用客は捨てる、
という判断をしただけです。
ある顧客の意見を採用することは、別の顧客の意見に反することになる。
こんなことはしょっちゅうですし、それ以前に当然のことです。
マクドナルドが誰のための店になろうとしているのかを考えれば、
この戦略は別段非難されるものではありません。
そしてファミリー客を引き寄せるために格好な、
ハッピーセットという強力磁石を持っているワケですから、
私が経営者ならば、全力でハッピーセットを売りにかかれ、
そのための環境を整えろ、という指示を出すことでしょう。
しかし、ここで忘れてはいけないのは、
マクドナルドが絶対的な強者であるということです。
そして、ターゲットを絞って、特化・ニッチ化していくのは
弱者の戦略である、ということです。
最安値を追求して勝てるのは、強者だけです。
記事にあるように
“マックはこれまで低価格商品を武器に
あらゆる客層を呼び込んで高成長を続けてきた。”
というワケです。
とはいえ売上推移をみれば、約10年前の原田氏による
V字回復劇前よりも、落ち込んでしまっています。
これが示すの事実をどう思われますか?
「もはや、マクドナルドは実体として強者ではなくなってしまった」?
「強者がなにも考えずに強者の戦略を振るえる時代は終わった」?
「顧客の期待する要求レベル(価格対価値)が高くなり、
たいていの企業はこれをクリアできなくなってしまった」?
「マクドナルドを高価格でも受け入れた消費者層の実体購買力が低下して、
それまで許容できた高価格商品に手が出なくなった」?
どのような仮説を立てるにしても、
その結果、自分自身のビジネスにはどのようなチャンスが
あるだろうかと考えてみましょう。