アイスクリームメーカーの惨敗
低価格戦略、価格競争に頼らざるを得ないビジネスというものは、確かにあります。
では、そのような価格競争に入った際、生き残るのはどのような企業でしょうか。
規模の大小でいえば、大企業の方が有利です。
体力が違います。
ですが、大企業でも撤退する企業はあります。
生き残るために、規模の大きさが支える体力は、有利には働きます。
ですが、体力だけで決まるワケではありません。
―― 引用ここから ―――――――――
アイスクリームメーカーの惨敗
会社がつくるものと、顧客が買うものを見事に取り違えて失敗したのは、スーパーマーケットチェーンで売られるプライベートブランドのアイスクリーム・メーカーである。スーパーマーケットは、顧客を引きつけ維持するために、低価格という印象をつくり出さなければならない。だから、スーパーにうまく売り込むには、ぎりぎりの安い価格で納入できなければならない。
この会社(仮にエドワード社と呼ぼう)は、最低の価格でさまざまなアイスクリームを生産できるという点で、特に優れていた。他のメーカーの倒産を尻目に急速に成長した。10州に販路を広げ、工場および工場直営倉庫から小売店へ直接納入していた。しかし成長が続いたため、新たに別の場所で工場を建て、配送体制を整備し、マーケティング・センターをつくる必要に迫られた。新工場、新体制下で以前と同じように効率のよい生産を行ったにもかかわらず、結果は無残なものになった。
元の場所では、社長が陣頭指揮を取り、電話で注文を受け、ただちに納入するというシステムがうまく進んでいた。これによってスーパーマーケットの、どちらかというと厳しい要請に応えられた。在庫量にも陳列スペースにも限度があるという理由から、スーパーマーケットは、定められた、客の混まない時間を指定して、週に数回納入することを要求した。売れ行きの鈍い期間の埋め合わせをするために、定期的な納入のほか、休日と夏季用の特別納入日を求めた。日が経つにつれ、こうした要求は、以前のエドワード社の工場の場所から自動的に、しかも効率よく満たせるようになり、この配送システムはルーチン化され、万事良好とされていた。
ところが、新工場を建てるに際して、社長ほか少数の経営陣が最も重要視したことは、製造コストを最低に抑える方策であった。つまり、自社の売上げをここまで伸ばせたのは低価格にあると考えたわけだ。実は以前の工場でエドワード社がつくり出していたものは、低価格というよりも、顧客を満足させる、効率的で自動的な注文・納品システムだった。この事実をよく認識していなかったため、新工場、納入システム、マーケティング・センターで、これら「サービス」が隅々までうまく回るかを評価する際、本当に求めるべきものを見失ってしまったのである。
つまり、自社の製品が現実に何であるか(なぜエドワード社は過去にこれほどまで成功したのか)に気付かなかったのだ。エドワード社の成功はここまでだった。サービスは同社の製品にとって不可欠の部分だということを考慮しなかったのである。サービスは、商売をするにに付属した「何かほかのもの」としか考えなかった。したがって、サービスが不当に軽視され、そのことがエドワード社の失敗の原因となったのである。
セオドア・レビット『サービス・マニュファクチャリング』
(1972年ハーバード・ビジネス・レビューより)
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次回、完結です。