意識的な模倣という手法

『購買意欲調査をめぐる狂想曲』も、
ちょっと途切れ途切れになってきたので、
ここで、バックナンバーです。

証明できない有用性

似通った結果になる理由

購買意欲調査に特有の事情

購買意欲調査の専門家たちを襲う不安

感性に基づく判断

では、本日は、この続きから。

―― 引用ここから ―――――――――

『意識的な模倣という手法』

次に、二番目の説明、すなわち模倣がなされた、という見方について考えてみたい。

よく知られているように、製品、パッケージ、販売促進、テレビの番組構成などでは、意図的な模倣がしきりに行われている。
とはいえ液体クリーナーの場合には、明らかな類似は認められても、それがすべて模倣によるものとは考えられない。
先陣を切った「レストイル」に対して、後発組が模倣したのは製品そのものだけで、ブランド名、容器、販売促進などは独自に考案されたものだ。「ミスター・クリーン」が市場に投入されると、その1年後、「ハンディ・アンディ」と「ジェニー」が登場した。
「ハンディ・アンディ」と「ジェニー」のブランド名、容器、コピーは意識的な模倣かもしれないが、当事者たちは強く否定しており、それに疑いを挟む根拠はない。

意識的な模倣があったとすれば、まったく別の業界を模倣した可能性が高い。
社会学者のポール・ラザースフェルドによると、タバコの「マールボロ」ブランドが対象顧客とは逆の性別のイメージを打ち出して大成功したことが、石鹸会社や広告代理店の心理的琴線に触れたのではないか、という。
したがって、石鹸会社と広告代理店は「マールボロ」に倣って、男性的な力強さを前面に押し出して、女性のハートをつかもうとしているのかもしれない。
このように、別の製品分野を模倣するのはきわめて一般的な動きである。
ある分野の起業が若さやモダンさを訴えて、それが消費者から受ければ、ほかの何十もの製品分野もすかさず同じテーマを追求
するだろう。
ビール分野で陽気でユーモラスな広告が当たれば、パン、ガソリン、アルミ・ホイルなどの業界がただちにそれに追従する。

液体クリーナーに話を戻すと、対象顧客とは逆の性別の美点をアピールする手法がたしかに用いられている。
だが、世の中の動きに敏感にアンテナを張りめぐらす百戦錬磨の三大メーカーが、相前後しておよそ異業種のアイデアに着目し、唐突に、しかも一斉に同じイメージを打ち出したのは、いったいどういうことだろうか。
これがまったくの偶然とは、とても思えない。
くわえて、プルーンのリサーチからもわかるとおり、類似性が見られる主な原因を購入意欲調査が洗練されているからだとするのも、行き過ぎである。
(プルーンの調査は、企業からの委託で行われた購買意欲調査の全貌が明らかにされた、極めて珍しい事例だといえる)。

物事の順番を考えると、何らかの模倣があった可能性は否定できない。
あのあまりにも似通った販売施策は、まったくの偶然に時を置かずして登場したわけではない。
「ハンディ・アンディ」と「ジェニー」には、「ミスター・クリーン」という先行例があった。
ビッグ・スリーがコンパクト・カーを発売するまる一年前に、スチュード・ベーカーが「ラーク」を世に出していた。
メンソール・タバコの分野では「クール」がはるか以前から発売されていた。
しかし、これら各社が意識的に互いを模倣したと想定した場合、「同じようなテーマを打ちだすと、どのブランドも差別化による利益機会を失う」という点を、広告代理店の経営幹部たちが見落したことになる。
したがって、一連の成り行きのほとんどが意識的な模倣によるものだと考えるのはあまりにも滑稽だ。
では、無意識による模倣がどの程度を占めているかとうと、その答えは永遠に闇の中だろう。

セオドア・レビット『購買意欲調査をめぐる狂想曲』
(1960年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

 

>各社が意識的に互いを模倣したと想定した場合、「同じようなテーマを打ちだすと、どのブランドも差別化による利益機会を失う」という点を、広告代理店の経営幹部たちが見落したことになる。

⇒見落としたと思います。それも意図的に。

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