ベネッセが示した”売り手の利”と”買い手の利”
何度か取り上げているベネッセの事件について。
個人情報保護の観点ではなく、マーケティングの観点で
見ていきたいと思います。
事件・不祥事というのは、交通事故と同じで、
起こした本人は「まさか自分が」と思うものです。
これからも、絶えず、どこかで、誰かが、
謝罪会見のようなものを開くことでしょう。
事件・不祥事は、いまは、まだ、あなたの番ではない、
というだけで、いつ発生してもおかしくないものです。
とはいえ、
このような事故や不祥事といったマイナス状況でも、
対応次第で、株を上げることもあります。
会見もプレスリリースもプロモーションの一環だからです。
もちろん、上手くできなければ火に油を注ぐことになります。
―― 引用ここから ―――――――――
【ベネッセ情報流出 原田会長らに認識の甘さ 想定以上の逆風】
今回の大量の顧客情報流出問題では、原田泳幸(えいこう)会長兼社長らベネッセ経営陣の、事態の重大性に対する認識の甘さが浮き彫りになっている。容疑者が逮捕された17日になって顧客への金銭的な補償に応じる方針を示したが、それまではかたくなに拒否。17日の記者会見では、この方針転換への質問が相次いだが、原田氏らは歯切れの悪い回答に終始した。
「これだけご迷惑をかけた。今回の問題で当社は加害者だと思う」
原田氏はゆっくりと言葉を選びながら「ベネッセは被害者か、加害者なのか」との質問にこう答えた。
9日の最初の記者会見では「情報を流出させたのはグループ社員ではない」とした上で、流出した情報を購入し、ダイレクトメールに活用したジャストシステムを「経営者のモラルが問われる」と非難した。「ベネッセは情報を盗まれた“被害者”」との印象を強調する意図は明らかだった。だからこそ、「金銭補償は考えない」(原田氏)のは当然だった。
だが、警察の捜査などが進む中で、流出が半年以上、しかも数回にわたっていても、ベネッセ側がこれに気づかない状況が続いていたことが判明。「とても大量の個人情報を扱うデータベース(DB)システムの管理としてはあり得ない」(大手コンピューターメーカー幹部)レベルで、結果的に、今回の逮捕容疑にもなっている「営業秘密の複製」を容易なものとしたことは否めない。
問題発覚から16日までに、5万件の抗議や問い合わせの電話を受け、その「6%程度が退会を申し出る」(小林仁ベネッセコーポレーション社長)など、顧客からの逆風は想定以上だった。
原田氏は「今回の問題に対する責任の取り方は、信頼を回復させること」と強調する。アップル日本法人や日本マクドナルドで社長を務め、“プロ経営者”としてベネッセに迎えられた原田氏だが、今回の問題の大きさと深刻さを見誤った責任は大きく、その分、信頼回復のハードルは高い。(平尾孝)
産経新聞『“プロ経営者”の誤算 認識甘く…想定以上の逆風』
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/140717/evt14071723170052-n1.html
―― 引用ここまで ―――――――――
残念ながら、現時点では、
ベネッセのプロモーションは反感を浴びた、
ということです。
ベネッセ側は、責任転嫁の印象を与えることで、
かえって顧客軽視の印象を与えてしまった、ということです。
自己防衛という“売り手の利”が強くなりすぎて、
被害者となる顧客の視点に立てなかった。
“買い手の利”を考えることができなかった、
というのが、一番まずかった点でしょう。
とはいえ、だんだんとベネッセ叩きのような風潮も出てきましたので、
ベネッセ側を擁護する記事も書こうと思います。
これは、ビジネススクールの恩師が講義のなかでクチコミしていたことです。
やはり、“売り手の利”をとるか、“買い手の利”をとるか、という話題です。
たとえば通信教育や通信販売、最近ではモバイルの会員制サービスなど、
「やめたいのに、あの手この手で、やめさせない」業者がまだまだいます。
ビジネスとして、「やめてもらいたくない」という気持ちはよくわかります。
しかし、そのために、退会方法を分かりづらくしたり、
退会方法を極めて複雑にしたりするなど、
利用者側の“根負け”を狙いにいくのは、
“売り手の利”のみを考えて、“買い手の利”を蔑にする行為です。
その恩師の息子さんがベネッセを退会する際も、
「粘られるだろう」と覚悟をしていたそうです。
ところが、あまりにあっさり
「かしこまりました。ご利用ありがとうございます」と
退会が認められたので、「これが買い手の利を考えることか」と
感心したそうです。
「これなら安心して、また必要になったときに申し込める」と。
売り手の利を優先させれば、悪評が立つ。
買い手の利を優先させれば、ファンができる。
買い手の利の視点でみると、今回の件も、
最適解は見えてくることでしょう。
ベネッセの今後の信頼回復に期待したいと思います。