ユナイテッドアローズのネット通販戦略に学ぶ、値付けの盲点
ずいぶん昔から、「リアル店舗で選んで、ネットで買う」という
価値観が蔓延しています。
リアル店舗にとっては、厳しすぎる逆風ですが、
顧客視点でみれば、ネットで注文するだけで2割以上、
ときには5割以上も割安で購入できるのだとしたら、
どれだけリアル店舗に申し訳ないと思っても、
ネットで注文してしまうものです。
そんな中、ユナイテッドアローズのとったネット通販戦略が
ツボを抑えていて見事です。
―― 引用ここから ―――――――――
いまやネット通販で買えないものはない。「これは無理だろう」と言われてきた商材すら呑み込みつつある。とりわけ、勢いに乗る「勝ち組」のビジネスモデルには、「リアル」との連携という共通点があった--。
「躓き」で気づいたネット商売の本質
パソコンのディスプレーに映る、洋服を着たモデルの画像。その横にある「店舗取寄」のボタンを押すと、店舗一覧の画面が立ち上がり、そこから希望店舗と来店予定日を指定する--。セレクトショップの国内大手ユナイテッドアローズ(以下、UA)は、今春からオンライン上で販売する商品を一部の店舗に取り寄せて試着できるサービスのテスト運用を始めた。
UAのネット通販は毎年業績を伸ばし続け、2013年3月期の売上高が119億円。全売上高の実に11.2%がネット通販となっている。ファッション業界では異例の比率だ。成功の背景には「実店舗とネット通販の融合」という考え方がある。
UAが2006年に自社の直営サイトを立ち上げたときには、「実店舗とネットは分ける」という方針だった。実店舗にある商品は少なく、ネット独自の商品を揃えたが、売り上げは伸びず、2008年にサービスは終了する。
このため09年に立ち上げた自社サイト「UAオンラインストア」では「実店舗の商品が買える」という方針に変えられた。さらに実店舗とネット通販で共通のポイントが貯まる「会員カード」を発行することで、一人ひとりの顧客の動きが見えるようになった。
この結果、明らかになったのは、「ネットは実店舗の売り上げを減らす存在ではない。むしろ売り上げを伸ばすもの」ということだ。デジタルマーケティング部の相川慎太郎部長は分析する。
「実店舗とネット通販を併用しているお客様は、実店舗だけで購入する人よりも店頭での平均購入金額が高く、約2.5倍になります。ネットでUAと接触する機会が増えれば、お客様は店頭にも足を運ぶ。つまりネット通販の促進が、店舗での売り上げにつながるのです。もうネット通販と実店舗で売り上げを奪い合う時代ではありません」
UAが「実店舗とネット通販の融合」に積極的な姿勢を取ることができるのは、実店舗がフランチャイズ(FC)ではなく直営という点も大きい。UAでは実店舗で試着しても購入に至らなかった顧客には、品番の書かれたメモを渡し、ネットでの購入を勧めている。直営であれば店頭でもネットでも同じ売り上げだが、FCでは難しい。
また直営のため、価格決定権を手放さずにすむ。ネットでも在庫の割引販売を行っているが、実店舗よりも値引きすることはない。これはどこで買っても損はしないという安心感を生む。
さらにもうひとつ、各事業本部の責任者が、実店舗とネットの責任を兼務するという点も見のがせない。
相川氏が部長を務めるデジタルマーケティング部は統括的役割を果たすだけで、販売責任はブランドごとにある。
このため「売り上げを最大化させるには、ネットと実店舗をどう活用するか」という視点が徹底される。現在、UAのオンラインストアでは、商品を選ぶと、通販用の在庫とは別に、各店の最新の在庫が確認できる。
データ更新は1時間半に1回。最寄りの店にいけば、商品の試着も可能だ。UAはネットと“リアル”の距離をどんどん近づけている。(文中敬称略) (鈴木 工=文 遠藤素子=撮影)
SankeiBiz『ネット通販と店舗で奪い合う時代ではない ユナイテッドアローズ成功の背景 』
―― 引用ここまで ―――――――――
運営されているビジネスをされている形態によって、
参考になる箇所がいくつかあるかとは思います。
私なりに、この戦略のキモを述べるならば、
“また直営のため、価格決定権を手放さずにすむ。ネットでも在庫の割引販売を行っているが、実店舗よりも値引きすることはない。これはどこで買っても損はしないという安心感を生む。”
というところでしょう。
これはなにもリアル対ネットという構図のみならず、
たとえば、町の電気屋と家電量販店、
個人商店とスーパーマーケットなどでも当てはまります。
売り手の視点で、価格をコストの積み上げで考えてしまうと、
「ネット通販ならば、テナント料や人件費がかからないから価格を安くできる」
という発想になります。
ごく一般的な発想です。
しかし、コインの裏表でみていくと、
裏を返せば、リアル店舗側では、
「テナント料や人件費がかかる分、価格に転嫁しなければならない」
という発想をしていることになります。
ですが、買い手の視点に立てば、
「同じ商品ならば、安い方がよい」と思うのは、
ごくごく自然なことです。
ですから、ユナイテッドアローズの“これはどこで買っても損はしないという安心感を生む。”という発想は極めて重要です。
なぜなら、「損をしたくない」というのは、人間の感情のなかでも非常に強いものだからです。
誰かが、「得をした」と思うことは、その反対側では、
誰かが「損をした」と思ってしまう恐れがあります。
たとえば、自分の店である商品を買ったお客様が、
その直後に隣の店で、同じ商品が安く売られているのを知ったら、
「あの店で買ったのは損だった」と思われてしまいます。
※誤解のないように、補足します。
「損をした」と思われないように、どこよりも安くしましょう、
という意図はまったくありません。
あなたがどこよりも安くした瞬間、あなたよりも
安売りしてくる業者は必ずいます。
これは競合との価格競争のみならず、
自店内でも同じことが発生し得ます。
ある商品を、今日から割引したとします。
すると前日に同じ商品を買ったお客様は、
どう感じるでしょうか?
ですから、「損をした」と極力思わせないように、
価格の魅せ方や、売り方を工夫する必要があります。
そうはいっても、具体的にどうするの? という疑問があるかと思います。
工夫の例をあげましょう。
■他店と比べられない商品に変えてしまう。
「当店限定のオリジナル詰め合わせセットです」
「ジャパネット限定モデルのご紹介です!」
■商品自体を違うものにバージョンアップさせる。
「最新版の○○会計2015を発売開始します。定価は●●円、前バージョンをご利用いただいていた方へは優待価格の▲▲円で最新版がご利用いただけます」
■割引する理由をひねり出す。
「うっかりミスでケースにキズが付いてしまいました。もう正規品としては販売できません。このままでは、廃棄するしかありません。中身にまったく問題はないので、心が痛みます。ですので、ケースのキズなんて気にしないよ、とう方がいらっしゃいましたら、ワケアリ品として特別価格でお譲りしたいと思います。」
いかがでしょうか?
長くなりましたので要点をまとめます。
値付けについては、ついつい「これは得だ」と思わせることにばかり、
気が向いてしまいます。
その裏側で「ああ損した」と思われないかチェックもしましょう。