セブンティーンアイスを差別化させた正攻法の戦略

夏の消費財シリーズの様相ですが、今日はアイス繋がりで、
セブンティーンアイスの戦略についての記事をご紹介します。
引き続き、Business Media 誠さんの記事からの引用です。

マーケティング戦略的には、さらっとスゴイことが書かれています。

セブンティーンアイスという、これといって特徴がない商品を、
いかにして差別化させたのか?

―― 引用ここから ―――――――――

いきなりだが、「セブンティーンアイス」をご存じだろうか。「ん? サーティワンではなくて?」と思うかもしれないが、ショッピングセンターや公園などで設置されている自販機アイスのことだ。

外で遊んでいるときに「暑い。アイスを食べたい」と思っても、近くにコンビニやスーパーがないことも。そんなときに、自販機でアイスを購入して、食べたことがある人も多いのでは。

自販機で販売されている「セブンティーンアイス」――実は歴史が長く、2015年に三十路を迎える。自販機は現在も全国各地に設置数を増やしていて、その数は2万台に迫る勢いだ。また、2013年度の売り上げをみると、過去2番目。販売している江崎グリコに聞いたところ「今年度(2014年度)は過去最高の売り上げにしますよ」と鼻息が荒い。

セブンティーンアイスといえば、コーンタイプやスティックタイプなどがあるが、なぜ30年ほど売れ続けているのか。ロングセラーの秘密を、同社マーケティング部の亀井正恵さんに話をうかがった。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則

土肥: 公園で遊んだあとや、飲みに行った帰りに、自販機でアイスを買ったことがある人は多いと思うんですよ。「プラスチックの棒にアイスがのっているアレね」といった感じで、すぐに思い浮かぶと思うのですが、商品名を知っている人は少ないかもしれません。セブンティーンアイスですよ、と言っても「ん? なにそれ? 聞いたことがないなあ」といった反応が返ってきそうで。

ほとんどの人が一度は食べたことがあるけど、詳しいことは知らない。てか、商品名すら知らない――それが「セブンティーンアイス」(やや失礼)。でもグリコにとって、それでは困りますよね。認知度をもっともっと上げていかなければいけない。そこで、この商品がどういった歴史をたどってきたのか、そのへんあたりから聞かせていただけますか。

亀井: セブンティーンアイスが登場したのは1983年、いまから31年前のことですね。当初は自販機ではなく、スーパーやコンビニなどのショーケースで販売していました。ただ、ショーケースの中には競合商品がたくさん並んでいますよね。そこに割って入っていくとなると、お客さんにはどうしても“後発組”として受け止められます。そうではなくて、これまでにはない形のスタイルで販売することができないのか? いろいろ検討した結果、「アイスが売っていない場所にアイスを売ってみてはどうか」ということで、1985年に自販機だけで販売することにしました。

土肥: どんなところに自販機を設置されたのですか?

亀井: セブンティーンアイスのターゲットは、「17歳の女性」を想定していました。なので、初めて設置したのはボウリング場なんですよ。当時は、若者向けのレジャー施設として人気がありましたので、そこに置いていきました。その後は、スイミングスクールやショッピングセンターなどに設置したので、家族や子供に買っていただくようになりました。そして、最近では駅でも設置するようになったので、ビジネスパーソンにも手に取ってもらえるようになりました。

土肥: 設置台数をみると、1990年代後半まで右肩上がりで増えていきました。その後はやや減っていきましたが、2009年から再び右肩上がりで増えています。この背景にはどういったことがあったのでしょうか?

亀井: 1990年代前半は“イケイケドンドン”ではなかったのですが、設置台数を増やしていきました。ところが、振り返ってみると「あれ? あまり売れていないところにも設置している……」という反省があって、見直しを始めました。

土肥: バブル経済のときに、とにかく設置しまくったのでは? 置けば売れる、置けば売れるといった状況だったので。でもバブルが崩壊して、ふと我に返ると「誰やねん、こんなところに自販機置いたのは!?」となったのでは。

亀井: 振り返るとそういった部分もありましたね(泣)。設置台数の目標は達成していたので、“それでよし”といった雰囲気がありました。でも、売り上げがイマイチという自販機があったので、スクラップ&ビルドを行いました。

 ただ、言い訳ではないのですが、設置したときには人の流れが多かったのに、時代の流れとともに、少なくなるところもあるんですよ。それは、いまでもあります。そうしたところにある自販機は、どうしても売り上げが伸び悩むんですよね。

土肥: リーマンショック後に、再び台数が増えていますよね。なぜですか?

亀井: 「1台当たりの販売金額は、どうすれば上げることができるのか」という課題がありました。お客さんに「おいしかった。もう一度食べたい」と思っていただくために、どうすればいいのか。トライアルとリピートの率を高めるために、商品の見直しを行いました。

土肥: どういった見直しでしょうか?

亀井: 「お客さんはクリームをもっと食べたいのではないか」という仮説を立てて、クリームの見える部分を増やしました。その一方で、コーンの部分を減らしました。

土肥: それによって、どういった効果があったのでしょうか?

亀井: 従来の商品はコーンの部分が多かったので、パッと見て商品の違いがよく分かりませんでした。リニューアル後はより鮮明になったので、お客さんに分かりやすさが伝わったのではないでしょうか。あと、見た目のシズル感が増して「食べてみようかな」と思われる人が増えたのかもしれません。

土肥: それによって売り上げが伸び、設置台数も増えていったわけですね。30年ほど販売されてきて、見直したのはそれだけではないですよね? 

亀井: いえいえ。見直し、見直し、また見直しの繰り返しですよ。「セブンティーンアイス=見直し」といった感じ(笑)。

土肥: 例えば、どんなところを?

亀井: あまり気づかれていないと思うのですが、自販機のパネルデザインは毎年変えています

土肥: 気づいていない、気づいていない(笑)。そんなに頻繁に変えないといけないのですか? たぶんほとんどの人は気づいていないので、3~4年に1回くらいでもいいのでは?

亀井: いえいえ、そういうわけにはいきません。自販機を見るのは「年に2~3回」という人たちは、「いつ見ても同じ」と感じられるでしょう。ただ、スイミングスクールに設置している自販機はどうでしょう? 生徒さんは頻繁に見ていますよね。また、駅に設置している自販機はどうでしょう? その駅を利用する人は頻繁に見ていますよね。そういう人たちには、デザインを変えないと「この自販機は古くさいなあ」と思われます。なので季節感などを変えることで、「ちょっと買ってみるか」という気分になってもらわなければいけません。

 もちろんデザインだけではダメで、フレーバーについても年4回変更しています。期間限定商品を含めると、年に10商品ほど入れ替えています。これまでに200種類以上のフレーバーを販売してきました。見直し、見直し、また見直しですね。ドイさん、気づかれていました?

土肥: も、もちろんじゃないですか(汗)。自宅の最寄駅に自販機がありますからねっ。

土肥: それにしても大変ですね。見直し、見直し……。そこまでしないと、アイスって売れないんですか?

亀井: セブンティーンアイスを販売した当初はスティックタイプしかありませんでしたが、その後はコーンタイプ、モナカタイプなどを販売して、ラインアップをどんどん増やしていきました。当たり前の話ですが、自販機は話すことができません。こちらから話しかけることができないということは、お客さんからの声も届きにくい。では、どうすればいいのか。やはり、商品と見た目でお客さんの心をつかみ続けなければいけないんですよね。そのためには、シーズンごとに新商品を開発したり、自販機パネルのデザインを変えたり、売り場に変化を与えなければいけません。

土肥: マンネリになると、お客は自販機の前を通り過ぎる。それではダメで、チラッとでも自販機を見てもらって「おっ、新商品か。ちょっと食べてみるか」と思ってもらうことが大切だと。

亀井: ですね。

Business Media 誠『30年前に生まれた自販機アイスが、今も増え続けているワケ』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1405/28/news016.html

―― 引用ここまで ―――――――――

意訳も含めて解説すると・・

■セブンティーンアイスは、「17歳の女性」をターゲットにしていた。

■にも拘らず、発売当初は、スーパーやコンビニなどのショーケースで販売。

■ショーケースの中には競合商品(他社製のアイス)がたくさんあり競争が激しい。

(そもそも1983年当時、コンビニはいまほどメジャーではないし、
17歳女性がスーパーでアイスを買うという消費行動をしていたかは不明。
戦略としては多いに疑問が残る・・・)

■そこで、競合との直接対決を避ける方法を模索。

■アイスが売っていない場所で、アイスを自動販売機で売る戦略を採択。

■これにより、競合が“他社製のアイス”ではなく、自販機で売られている“ジュース”に変化。アイスであること自体が差別化要素になる。

■自販機の最初の設置場所は、ターゲットである「17歳の女性」が出入りするボウリング場にした。

■顧客視点にたって、カイゼン、カイゼン、カイゼン・・・。

ということです。

マーケティング戦略を考えるうえでは、定跡通り。
ずばり正攻法なことをしています。
“当たり前のことを、当たり前にやりました”といっても過言ではありません。

しかし、当時の開発担当の苦悩や努力は相当なものがあったことでしょう。
そして30年以上それを続けてくるのはタイヘンなことです。

ですから、何度か書いていますが、戦略に使用するツールは極めてシンプルです。
むしろ、そのツールを駆使して、実際の戦術に落とし込めるか、
そして、実際のアクションプランに落とし込めるか、
そして継続して、PDCAを回し続けられるか。

スポーツの世界も、○○道の世界も、マーケティングの世界も、
やはり最後にモノをいうのは、地道な基礎の積み重ねということを
思い知る記事でした。

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