森永製菓がウイダーinゼリーで見せた切り戻しの妙
ウイダーinゼリーがリニューアルで苦戦しているそうです。
唐突ですが、この記事を読んで、どのような印象を持たれるでしょうか?
―― 引用ここから ―――――――――
「新しい価値観を世の中に提示していく」――。
こう掲げて今年3月、森永製菓は主力商品「ウイダーinゼリー」のラインナップとコンセプトを一新する、大リニューアルを実施した。
従来の「エネルギー」「マルチビタミン」「プロテイン」という機能性を軸にしたラインナップから、「エネルギー」「カロリーハーフ」「カロリーゼロ」というカロリー別のラインナップに変更。リニューアル会見では「ウイダーのブランドコンセプトに時代のニーズをプラスした」と自信を見せていた。しかし、わずか4カ月で、このリニューアルは見直しを余儀なくされることとなった。
ウイダーinゼリーは1994年に発売された、ゼリー飲料のパイオニア的商品だ。当時、朝食をとらない人が増加し始めたことに着眼し、1個でごはん1杯分のエネルギー(180キロカロリー)を摂れる手軽さを売りにした。そして99年、SMAPの木村拓哉氏が出演した「10秒チャージ2時間キープ」というキャッチコピーのCMが話題を呼び、売上高が飛躍的に拡大。現在では、森永製菓の年間売上高1646億円(2013年度)のうち約300億円を占める、同社ナンバーワン商品に成長している。
ただここ10年、ウイダーinゼリーの売上高は横ばい状態にあった。その原因について、「現在の20歳から30歳くらいの人たちにとって、ウイダーinゼリーは子供のころから当たり前にあるもの。どうしても目新しさはなくなっている」。森永製菓が4月のリニューアル会見で配布した資料で、松崎勲・執行役員も率直に語っていた。そこで発売20周年を機に、「発売当初の驚きをもう一度取り戻そうと、リニューアルすることにした」(同)という。
リニューアルに際し、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を招聘。ファーストリテイリングや楽天といった企業だけでなく、SMAP、新国立美術館、明治学院大学など、あらゆるジャンルのブランド戦略を手掛けてきた人物だ。セブン-イレブン・ジャパンのPBブランド「セブンプレミアム」のリニューアルでは、「それまでほとんど売れていなかった折りたたみ傘が、佐藤氏のデザインで発売したら晴れの日でも売れるようになった」という逸話もある。
その佐藤氏が、今回のリニューアルではデザインのみならず、クリエイティブディレクターとして、ブランドコンセプトの設計からコミュニケーション戦略まで、トータルでプロジェクトに参画したのだ。
ところが、である。こうして実現した大幅刷新だが、8月6日に発表された第1四半期決算で、驚くべき結果が明らかになった。ウイダーinゼリーの売上高が前年同期比1割減になっていたからだ。
森永製菓はその原因について、「リニューアルのコンセプトを浸透することができなかった」と説明する。カロリーのない「カロリーゼロ」が比較的好調な一方、1個90キロカロリーの「カロリーハーフ」が苦戦。「カロリーハーフ」はリニューアル前の「マルチビタミン」をベースとする商品だが、カロリーゼロでも、エネルギー補給ができるわけでもない、「カロリーハーフ」に置き換えたことで、その価値を訴求しにくくなったものと見られる。
売り上げ不振を受け、森永製菓は早くも7月、急遽「カロリーハーフ」を「マルチビタミン」に戻す“再リニューアル”を実施。「カロリーハーフ」は4カ月足らずで姿を消すこととなった。
同社は今後、現在販売中の「エネルギーレモン」や「エネルギービッグ」といった期間限定フレーバーや大容量品の投入で、底上げを図る見通しだ。また、引き続き佐藤氏はブランド戦略に携わるとしている。
“可士和マジック”で華々しい20周年とするはずが、出鼻をくじかれたウイダーinゼリー。再びの方針転換で、よい1年とすることができるのか。今後の戦略から目が離せない。
(文中、松崎勲氏の「崎」は正しくは「大」の部分が「立」です)
東洋経済『森永製菓、「ウイダーinゼリー」まさかの躓き 佐藤可士和氏による大リニューアルの結果は…』
http://toyokeizai.net/articles/-/45563
―― 引用ここまで ―――――――――
この記事、というか森永製菓の対応には、いくつかの学ぶべきことが含まれています。
まず、記事の内容を時系列に並べてみましょう。
“ウイダーinゼリーは1994年に発売された、ゼリー飲料のパイオニア的商品だ。”
“現在では、森永製菓の年間売上高1646億円(2013年度)のうち約300億円を占める、同社ナンバーワン商品に成長している。”
“ただここ10年、ウイダーinゼリーの売上高は横ばい状態にあった。”
“その原因について、「現在の20歳から30歳くらいの人たちにとって、ウイダーinゼリーは子供のころから当たり前にあるもの。どうしても目新しさはなくなっている」。”
“そこで発売20周年を機に、「発売当初の驚きをもう一度取り戻そうと、リニューアルすることにした」”
“リニューアルに際し、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を招聘。”
“「ウイダーのブランドコンセプトに時代のニーズをプラスした」と自信を見せていた。”
“従来の「エネルギー」「マルチビタミン」「プロテイン」という機能性を軸にしたラインナップから、「エネルギー」「カロリーハーフ」「カロリーゼロ」というカロリー別のラインナップに変更。”
という流れです。
終わったことを後から批判しても意味はありません。
そういう意図ではなく、
あくまであなたが森永製菓の経営陣ならば、どう考えてしまうか、
という視点で考えてみてください。
■その1
全社売上の18%にもなる主力商品ウイダーinゼリーの売上が10年間横ばい。
この状況を「テコ入れが必要」とネガティブ捉えるでしょうか?
それとも、「競合を撥ね退け、消費者の支持を得続けている」とポジティブに捉えるでしょうか?
■その2
仮にネガティブに捉えたとして、改善が必要だと判断しました。
横ばいの原因は、ウイダーinゼリーの目新しさがないから。
対策として、発売当初の驚きをもう一度取り戻すためのリニューアルをする。
クリエイティブディレクターとして、佐藤可士和氏を招聘しよう。
あなたは決裁印を押します。
結果あがってきた商品コンセプトは、
“従来の「エネルギー」「マルチビタミン」「プロテイン」という機能性を軸にしたラインナップを、
「エネルギー」「カロリーハーフ」「カロリーゼロ」というカロリー別のラインナップに変更する”こと。
承認会議で、あなたは、
「これは目新しい、消費者は驚くはずだ」と判断するでしょうか?
それとも、「どのあたりが時代のニーズなの? そもそもお客様はどう嬉しいのよ?」と突っ込みを入れるでしょうか?
・・・さて、実は、これは代表的なマーケティングあるあるです。
身近な例ですと、「効果の出ている広告や販売戦略を変えてしまう」とか。
ヒトは、既存のことよりも、目新しいことに惹かれてしまう傾向があります。
これは、“売り手”も“買い手”もです。
ですから、ずっと同じ商品を出し続けて、直接競合商品や代替商品に
シェアを奪われているのだとしたら、テコ入れ改善は、早急に着手すべきです。
とはいえ、“定番”には“定番”の強さと意地があります。
コカ・コーラも、アクエリアスも、そのままです。
目新しさを出すならば、レモン味を出すとか、商品ラインナップを増やした方が堅実です。
さらに権威性の問題もあります。
社内の若いマーケターが、“カロリー別のラインナップで行きましょう”と提案してきたら、
「却下、以上」とはねつけるところも、
「可士和先生もそれでいけるって言ってるのか?」と、ワンクッション入って判断を鈍らせます。
このあたりの心理は、レビット博士の『購買意欲調査をめぐる狂想曲』が詳しいですね。
とはいえ、森永製菓の切り戻し判断は本当に見事です。
“ウイダーinゼリーの売上高が前年同期比1割減”
“売り上げ不振を受け、森永製菓は早くも7月、急遽「カロリーハーフ」を「マルチビタミン」に戻す“再リニューアル”を実施。“
“「カロリーハーフ」は4カ月足らずで姿を消すこととなった。”
「ダメだったら、元に戻す」
言葉にすれば簡単ですが、実際に“実行”するのは難しいです。
なんといっても、この段階で、ヒト・モノ・カネ・ジョウホウの
経営資源をかなり投下していますし、プライドもあります。
「リニューアルのコンセプトを浸透が甘いので、そこを改善しましょう」とか
「もうちょっと様子をみましょう」とか、判断を先延ばしにすることはできたはずです。
しかし、森永製菓はバッサリいきました。
経営陣や現場は、相当苦しい決断だったことでしょう。
見事です。
根拠がない直観なのですが、ここからの巻き返しが過ごそうです。
記事の通り、今後の戦略から目が離せないですね。