DyDoに学ぶ常識や定説を疑うことの重要性
突然ですが、あなたの業界の常識や定説はなんでしょうか?
すべての業界に先人の知恵があります。
広告の世界でいっても、はるか昔はクーポン付広告が流行っていましたが、
その昔クーポンを止めて記事風の広告にした方が、反応があがったという
ことがありました。
これで定説が覆り、以降は広告といえば記事風広告というようになった、
ということがありました。
このようにあっさり書いてしまえばそれまでですが、
広告業界においては天動説が地動説に置き換わるくらいの
衝撃であったことでしょう。
このような例は、どの業界にもあることだと思います。
本日はそのような常識や定説を疑いましょうというハナシです。
Webのデザイナーの方ならば、
Web閲覧者の視線の動きはF型とかZ型とか、
そういう常識や定説を知識としてお持ちかと思います。
これは、いつの時点の常識・定説で、いつまで有効なものでしょうか?
どのような変化が発生することで変わってしまうのでしょうか?
例えば、スマートフォン用サイトはI型といわれています。
これは、デバイスが変われば、視線も変わったということです。
当たり前といえば、当たり前なのですが・・。
さて、自動販売機における顧客視点はZ型(視点がZを書くように動く)と
信じられてきました。
缶コーヒーのDyDoドリンコは、ここを疑って売上を伸ばしました。
―― 引用ここから ―――――――――
新人: 部長ーっ、ウチの主力商品「缶コーヒー」は、自販機のどこに置きましょうか?
部長: バカモーン! 自販機の前に立ったお客さんは、まずどこを見るのか? お前知らないのか?
新人: す、すいません。
部長: 「左上」だよ。最初に「左上」を見てから、アルファベットの「Z」の形を描くようにして、右下まで視線を動かすんだ。
新人: そうだったのですね。勉強になります!
自販機業界で上記のような会話が飛び交っていたかどうかは分からないが、業界内では30年以上も信じられていた“常識”がある。それは自販機の一等地は「左上」であること。しかし、人間の視線を追いかける「アイトラッキング(眼球追跡)」の技術を使ったところ、いとも簡単に常識が覆されてしまったのだ。
アイトラッキングに目をつけたのは、清涼飲料水メーカーの「ダイドードリンコ」(以下、ダイドー)。スウェーデンのトビー・テクノロジー社が開発した眼球型の装置を使って分析したところ、自販機の一等地は「左上」ではなく、違う場所であることが分かった。その結果には誰もが驚いたが、同社はこれまでの常識を捨て、2013年に主力商品の缶コーヒーを“視線を集めるエリア”に置いたところ、売り上げがアップしたという。
人は自販機の前に立ったときに、一体どこを見ているのか。またアイトラッキングの結果を受け、ダイドーはどんなマーケティングを展開したのか。広報・IR部の正本肇さんに話を聞いた。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。
■コーヒー事業を始めたきっかけ
土肥: 「目は口ほどにモノを言う」といったことわざがありますが、ダイドーは人の視線を追いかける「アイトラッキング」という技術を使って、自販機でどのエリアが注目されているのかを分析されました。その結果を受けて、主力商品の缶コーヒーを“視線を集めるエリア”に置いたところ、売り上げがアップしたそうですね。
この話を聞いたとき「へー、おもしろい」と思って、正本さんに取材をお願いしたわけですが、その前に聞きたいことがあります。そもそもどういったきっかけで、缶コーヒーを扱うようになったのでしょうか?
正本: もともとは奈良県にある「大同薬品工業」という会社に、薬剤部門と清涼飲料部門がありました。その飲料部門を切り離して「ダイドー株式会社」としてスタートしました(1984年に現在の社名)。
大同薬品工業は1956年に設立して、当時は“富山の置き薬”のように、販売員が企業や家庭を訪問して、医薬品の入った箱を配っていました。東北と北関東のガソリンスタンドに置き薬を配っていたのですが、ある日その横にコーヒーを置かせていただきました。そうすると、ドライバーが「これ、いいねえ」といった感じで、飲んでくれたんですよ。これがきっかけで、コーヒー事業を始めました。
土肥: メインは置き薬だったので、「コーヒーを売るぞ!」「缶コーヒーを広めるぞ!」といった形でスタートしたわけではなかったのですね。
ところで、ダイドーの本社は大阪。やはり、関西圏のシェアは高いのでしょうか?
正本: それがですね……弱いんですよ。
土肥: やっぱり(失礼)。私は大阪出身なので、なんとなく感じていたんですよ。「ダイドーの缶コーヒーってあまり見かけないなあ」って。なぜ関西のシェアは低いのですか?
正本: それが……よく分からないんですよ(笑)。
土肥: ちょ、「よく分からない」って……。
■アイトラッキングに注目した理由
正本: 先ほども申し上げましたが、コーヒー事業を始めたきっかけは、置き薬の横に置かせていただいたこと。それは東北と北関東のガソリンスタンドだったので、今でもこのエリアのシェアは高いんですよ。
土肥: ということは、そこの人たちに「ダイドーのコーヒー、飲んだことある?」と聞くと、「ある、ある」と答える人が多い?
正本: はい。自販機の設置台数だけでなく、スーパーやコンビニでの採用も多いですしね。あと、弊社はファブレス(自社で生産設備を持たない)でやっていて、缶コーヒーの製造は静岡にある工場に依頼しました。なので、静岡や山梨でのシェアも高い。
その一方で、東京、名古屋、大阪……といった都市に弱いんですよ(涙)。
土肥: せめて、お膝元の大阪のシェアは高くしたいですねえ。でも自販機って競合がたくさんある。コカ・コーラとかサントリーとかアサヒとか……。そんなライバルたちに追いつき、追い越すために、アイトラッキングに注目されたわけですか?
正本: もちろんそれもあるのですが、「どうすれば(ダイドーの)自販機に気づいてもらえるのか?」「どうすれば買いやすい自販機にできるのか?」といった悩みがありました。そこで、お客さまの視線の動き追いかける「アイトラッキング」に目をつけ、分析を始めました。
土肥: どのように分析されたのでしょうか? 具体的に教えていただけますか。
正本: スウェーデンのトビー・テクノロジー社が開発した眼鏡型の装置を使って、お客さまが自販機で飲みモノを買う際に、どの部分を見ているのかをエリア別に分析しました。
その結果、「左下」に視線が集まっていることが分かったんですよ。これには驚きましたね。というのも、従来のマーケティングでは「『左上』が最も見られている」と言われてきました。これは自販機だけでなく、スーパーやコンビニの棚でも「左上」と信じられてきました。まず「左上」を見て、アルファベットの「Z」の形で右下まで目を動かす――これが常識でした。
土肥: その常識は、誰も疑わなかった?
正本: 疑うどころか、何も考えずに信じていました。その証拠に、弊社では主力商品の缶コーヒーはずーっと自販機の「左上」に置いていました。でもアイトラッキングで分析したところ「左下」ということが分かった。
土肥: 「なんや、みんな『左上』見てないやん」といった感じ?
正本: です、です。分析結果を受け、2013年の春に、缶コーヒーを「左下」に置くようにしました。その結果、売り上げが数十%アップしたんですよ。
土肥: それはスゴい!
正本: もちろん、売り上げがアップした要因のすべてがアイトラッキングだとは思っていません。リニューアルや広告などの効果が重なって、好結果につながったんだと思っています。
しかし、ですね……いわゆる“コンビニコーヒー”が急速に普及した影響を受けて、その後は売り上げが伸び悩みました(涙)。
■自販機の存在感を強めるために
土肥: 缶コーヒーを扱う会社は、のきなみ苦戦しているようですね。多くの会社は対前年度比で二ケタマイナスなのに、ダイドーはわずかながらもプラス。厳しい環境の中で、「なんとか踏ん張った」と言えるのではないでしょうか。
……なーんてゴマをすって、正本さんからネタを引き出したいと思っています(失礼)。人の視線を分析することで、自販機の一等地が「左下」であることが分かった。次に、どんなことが見えてきたのでしょうか?
正本: お客さまに自販機で飲料を購入していただくのにはどうすればいいのか。パッと見て、パッと買いたくなるようにさせなければいけません。瞬間で勝負が決まってしまうんですよ。
土肥: つまり、コカ・コーラやサントリーなどの自販機が並んでいる中に、ダイドーのマシンがあった場合、「お、隣にコカ・コーラがある。じゃあ、ジョージアを買おうか」と思わせないようにする。
正本: その通りです。缶コーヒーを左下に移しても、存在感が弱かったらなかなか気づいてもらえません。そこで何をしたかというと……下の写真を見ていただけますか?
これまでは「どのようにすれば効果的なPOPになるのか」試行錯誤していました。例えば、缶の左上に「コクと後キレ UP!」といった文字を入れて、目立つようにしていました。しかしアイトラッキングで分析したところ、お客さんは商品を目の前にしたとき、まず上を見て、そして下を見ることが分かりました。そこで、缶コーヒーの上と下にキャッチコピーを入れました。
土肥: ほー。
正本: 次に下の写真を見ていただけますか? これは「ダイドーブレンド」の写真で、左がリニューアル前、右がリニューアル後ですね。
「ダイドーブレンド」の商品だと認識しやすくするように、ロゴのフラッグを大きくしました。また先ほども申し上げた通り、商品を見るときには上から下に視線を移動させることが分かったので、「微糖」という文字を大きくしました。
土肥: ふむふむ。確かに、2つの商品を比べてみると、リニューアル後のほうが分かりやすくなりましたね。以前は「ブレンド微糖」と書かれていましたが、いまは「ブレンド」が取れている。これ……編集者的に言うと「トル」で正解。商品名に「ブレンド」と書いているので、“ダブ”ってるんですよ。頭痛が痛い……のような感じ。
あと、左上の文字がなくなりましたね。客は商品を目の前にしたとき、上を見るはずなのに……。
正本: 左上の文字は取って、自販機にシールで貼り付けました。このほうが目立つので。
土肥: 自販機ではそれでいいかもしれませんが、スーパーやコンビニの棚では目立ちませんよ。シールとか貼れませんし。
正本: 左上の文字を取ったのは、流通対策でもあるんですよ。スーパーやコンビニで採用されるためには、パッケージも大事だし、容器そのものも大事だし、ブランドも大事。
土肥: 全部大事じゃないですかー。
正本: 自販機のように目立たせればいいでしょ、という世界ではありません。新商品の「ダイドーブレンド」ボトル缶では「世界一のバリスタが選んだ豆」という文字をどーんと大きくしました。
土肥: でも、今度はフラッグが小さくないですか? 重箱の隅をつつくようなことばかり言って、どーもすいません。
正本: いえいえ、小さくしたのにもワケがあるんですよ。アンケート調査をしたところ、ブランドの認知度がかなりアップしたんですよね。それでフラッグを小さくしました。
土肥: なるほど。缶コーヒーのパッケージひとつとっても、歴史があるのですね。あと、自販機ひとつとっても、いろいろなノウハウが詰まっている。
それにしても恐るべし「アイトラッキング」。従来のアンケートではよく分からなかった消費者の本音が、赤裸々に浮かびあがるわけですから。今回は自販機の“常識”が覆ったわけですが、このほかにどんなことが分かっきたのかな。ちょっと気になるので、ダイドーが使ったトビー・テクノロジー社を取材してきますね。
正本: おお、それは楽しみにしています。
Business Media 誠『自販機の一等地は「左上」? 人の視線を追いかけたら“常識”が覆った』
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1403/26/news045.html
―― 引用ここから ―――――――――
さて、あなたの業界の常識や定説は、本当に正しいのでしょうか?
ある時期正しかったとしても、その正しさが陳腐化することはあります。
では、どうしたらよいのか?
その解は、「少しだけ常識を疑うテストをする」ことです。
常識や定説に従えばAよりBの方がよい。
だとしても、そこを敢てAも出してみて市場の反応をみることです。