中途半端な妥協が失敗の原因

ヒトが、なにかをしようとして実際に行動します。
結果は、成功または失敗です。

新規の事業を立ち上げるのも、
生卵を割るのも、
この点はまったく変わりません。

もちろん、誰でも失敗はしたくないものです。
ですから、なるべく失敗しないように準備をします。
また、失敗してもキズが浅くて済むように、リスクヘッジをします。

ですが、あまりに失敗を恐れるあまり、
「だったら、実行しない方がよいのでは?」
というほど、ダメな決断をしてしまうこともあります。

・もし、ダメになったとしても・・・
・石橋は叩いて渡りたい
・未知の要素はなるべく減らしたい

いわゆる“ビビり”でなくても、
これらは当然の意見です。

・自動車がほしい。
・けれども自動車は安くはない。
・選択の失敗はしたくない。
→よし、タイヤだけ買おう。

こんな間抜けな判断はしないと思います。

けれども、ビジネスの成否は複雑ですから、
優秀なハズのトップが、こんな間抜けな判断をしてしまうときもあります。

さて、あなたは、こんな間抜けな意思決定をしていないでしょうか?

―― 引用ここから ―――――――――

中途半端な妥協が失敗の原因

反対に、テクノロジーの可能性の探究を怠った場合も、同じような破局に見舞われることがある。アメリカ全国にほぼ3万のスタンドを抱える大手石油会社が、革命的ともいえる自動車修理サービス・システムについての提案を検討した際、原案を骨抜きにして採用したため、失敗を招いてしまった例がある。

このシステムの基本的な考え方は、専用の不良箇所診断および修理用の設備を利用して、どんなに作業が殺到してきてもさばけるだけの巨大な修理サービス・システムを作ろうというものだった。重労働でいつも急かされているガソリン・スタンドの従業員ではなく、このシステムを使って正確な不良箇所が発見できれば、車がいくら殺到しても、修理センターのしかるべき部署へと送られていくはずだった。車の問題別・部門別にそれぞれ専門家を配置し、最新設計の高速用具で修理してしまう。オイル交換は、組立ラインの低賃金の工員がやってくれるし、電気系統の修理は、専用の技術者がやってくれる。診断後のチェック・アップもすべて完璧で、完全修理の折り紙までついていた。

だが、このシステムで利益を生むには大量の車をさばく必要がある。したがってこのセンターは人口過密地域に設置しなければならない。このためにもともとの提案では、中心都市の古い倉庫街に特別な建物をつくる必要性をうたっていた。そこなら土地代も安く、大都市圏のどこからでも訪れやすい。サービス・センターの技術力の高さは透明ガラスを通じて顧客の目に焼きつけられるだろうから、付近がどんなにさびれた場所であっても、それを相殺してしまうに違いない。そのうえ、大量の修理を手掛けるには、不定期的な修理案件よりも、計画的な修理案件に的を絞らなければならない。

また、原案では、夜間を利用した修理引き渡しサービスが条件とされていた。こうすると、車が使われる昼間に修理するのではなく、ドライバーの眠っている夜のうちに片づけられる。さらに、このシステムを宣伝すると、同社のフランチャイズ契約を結んでいるガソリン・スタンド・ディーラーは、仕事が奪われると反発して、競合他社へと鞍替えするだろうから、最初のサービス・センターは、同社のスタンドのない大都市につくるべきであるとされていた。

これらの提案の内容は、サービスの場に、優れた製造の方法を応用しているように思われる。ところが、この会社は次の致命的な変更を加えた。

第一に、コストの高い、交通利用の多い郊外の場所にセンターを置くことを決定した。その理由は「この実験にもし失敗したとしても、少なくとも建物だけは別の用途に使える場所に置きたい」ということだった。その結果はどうだったか。場所は不便で、原案に比べて土地取得コストは5倍になり、サービス・センターの損益分岐点が上昇してしまった。

第二に、夜間利用サービスはやめることにした。その理由は「本格的に操業を始める前に足ならしをしておいたほうがよい。そのうえ自分の大切な車を、名も知れない遠方のガレージに、しかも夜間に預けてくれるとは思えない」というものである。既に評判の高い全国的に名の知られた石油会社が、だれの目にも明らかな先端テクノロジーを駆使した新型の顧客サービス企業を運営するのだから、そういう心配はないと説得したが、同社のトップは聞き入れようとはしなかった。

第三に、最初のセンターは、同社のフランチャイズ・ディーラーが主力を占めている都市に作ることに決定した。その理由は、「そこの事情によく通じているから」である。システムの場合、大々的な宣伝ができないという問題の埋め合わせとして、自社ディーラーに対して、センターに修理の仕事を回してくれたならコミッションを払おうと申し出た。ディーラーはそのとおりにした。ただし、自分のところではできないか、したくない仕事だけを回してきた。その結果、経費のかかる巨大センターを訪れる車の数は、話にならないほど少なかった。

サービスに製造のアプローチを応用しようと試みるならば、①企画と設計の段階で、テクノロジーの可能性を低めに見積もってしまったり、②現場における実施段で、テクノロジーの複雑性を前面に押し出して混乱させてしまうと、おそらく失敗するだろう。人間の神秘的な能力に代えて、テクノロジーとシステムを用いるには、基本原理の企画と設計においては複雑であっても、マクドナルドの例のように、現場においては単純でなければならない。

投資会社があれだけ成功したのも、その単純さに原因がある。一人の顧客係を通じて個人個人の株を売買するといっても、その基本原理は複雑だ。投資信託会社は、マクドナルドの金融版である。株の売り手と買い手、双方の仕事を単純化してくれるだけではなく、多数の買い手を作りだして、製品の生産をより有利にしてくれる一種のテクノロジーである。

大規模小売店による大量販売もこれに似ている。従来の街の小売店では、顧客は少ない品数から選ばなければならないうえ、店員は知識不足でサービスものろのろしている。大規模小売店はそれに代わって、豊富な品数とスピーディで効率的なセルフ・サービスを打ち出した。GMS(総合小売業)などは、小売という仕事に組立ラインと同じ考え方を持ちこんだ、新しいテクノロジーの一つである。顧客が思い思いに組み立てる点が違うだけである。

セオドア・レビット『サービス・マニュファクチャリング』
(1972年ハーバード・ビジネス・レビューより)

―― 引用ここまで ―――――――――

この失敗した石油会社の例は、
傍から見たら笑い話のようですが、

原案を骨抜きにしてしまった
トップの意見のひとつひとつは、
気持としては理解できます。

・もし、ダメになったとしても・・・
・石橋は叩いて渡りたい
・未知の要素はなるべく減らしたい

ですが、この石油会社の例では、
明確に書かれてはいませんが、
当然、この規模の投資であるならばテストはしているでしょう。

そして、そのテストの結果を受けてやると決めたなら、
ある程度のリスクテイク(成功するか失敗するかの不確実性)は、
覚悟しなければなりません。

その責任を逃れたいトップ(雇われ経営者やリーダー)がいたら、
思い切って飛ばすべきでしょう。
少なくとも新規になにかを立ち上げるようなプロジェクトを任せるべきでは
ありません。

「俺は最初から失敗するとわかっていた。俺が指揮したから被害を最小限にできた」と
ドヤ顔で自慢したがるような輩です。
そんなトップならば、プロジェクト自体をやらない方がマシです。

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